『何や、マキナ……至急きてくれやなんて』
昨日の豪雨も嘘のように、春の如くぽかぽかとした昼時、港人は牧菜に呼び出された。基本港人が暇な時間に(=ほぼ毎日)病室に遊びに行くので彼女から呼び出すことはあまりない。
それもあって期待と不安が七分三分くらいで走ってきたのだが、対面して期待は消え失せた。
元気がない。スミレのように儚くも可憐な美しさがあった彼女がしおれて折れてしまいそうでもあった。
『あのね……ホントはずっと前から言うつもりだったんだけど、言い出せなくてごめん……手術、受けようと思うんだ』
『そっか……不安なはずや』
『先生の話ではね、最近見つかった方法で、成功率も高いらしいんだけど……』
『そっか、ならええやん』
『ここじゃないもっと大きな病院に行かなきゃいけないし、やっぱり体の中をいじられるのって不安だよ。それに……港人君にずっと会えないし』
『……………』
それは……彼だって一緒だ。マキナに会えないのは淋しい、それでも自分の都合は押しつけられない。だが、彼女もまた離れることを望んでいなかった。
『……俺かて、一緒や。マキナに1日以上会えへんなんて想像もつかないねん。せやけど、行ってこいや。無事に治ったら、何処にでも俺の原付で連れていったる』
『原付……って、ミナト君免許持ってないじゃん!』
『お前なあ、細かいこと言うなや。親父から盗んだ原付で走り出そうや。バイクやのうて勘弁な』
『もう、色々問題だよ……ふふっ』
笑みが戻る。枯れかけた一輪の花を潤す水の一雫、それは彼の言葉だった。
『ねぇ、ミナト君……お願いがあるんだ』
『……何や?』
『……離れる前に、この町の景色を覚えておきたくて』
『分かった』
『ええぇっ……で、でも私外出厳禁だし』
『敷地内を車椅子で散歩するのはええやろ。そして、ミナトさんは方向音痴やから、うっかり敷地から出てまうやもしれん』
二人は声を殺して笑う。悪戯をする子供のように。
『……どこに行きたい?』
『えっとね、とにかくこの町の自然の香りを覚えておきたい。通りを散歩したり、山に行ったり、商店街で美味しいもの食べたり……もう一度、白兎川に行きたいな』
二人が初めて病院を抜け出して行った場所。特に何もないが、二人の、規則に対しての初めての冒険の場所。
『よし、行こか』
『うんっ!!!』
『うわ~広いね~、山登りなんて初めてだよ、以外ときつくないもんだ』
『せやな~……って何でやねん!!!!!! オレが此処まで押してきたんやないか!!』
『ミナト君、ノリツッコミ零点』
『が~ん……』
『あっ、あれ食べたい!!!』
『たこ焼きか……食べたらあかんとか無いんやな?』
『体調管理はばっちりです』
『すんまへん、たこ焼き二パック下さ~い』
『あ、私もそれで~』
『四つも食わへんよ!!!?』
『氾濫してんな……』
『私達も病院の決まりに反乱してるから良いじゃん』
『うん、何というか、参りました』
『うむ、宜しい』
昨日あれだけの豪雨に見舞われれば水かさも増し流れも酷いことになっていた。こんな川に落ちたらオリンピッククラスの猛者でもきつい。
河原の小石がゴツゴツするのでミナトは慎重に車椅子を押して進む。
からっと晴れたこの河原は絶好のピクニック日和だったけれど、生憎弁当などは持ってきていないので、さっき購入したたこ焼きを食べることにした。
『はふっ、あふっ、もっと冷めてると思ったよ~』
『そりゃあ何よりや、あったかいもんは冷ませるけど、冷えたもんはどうにもならへんからな』
二人はそよぐ風を楽しみ、流れていくソースと鰹節の風味を鼻先で愛でながらたこ焼きをぱくついた。
その刹那、右から鋭い一撃が間隙を縫って衝き込まれる。
『おっと、その手には乗らへんで牧菜』
『何かミナトのがおいしそうな気がする』
『そう言うの、隣の芝生は青い言うんやで』
『私とたこ焼きとどっちが大事なの!?』
『ん~……』
『悩むなっ!!!』
そう言って二人は笑い転げた。病室に拘束され外界と隔絶された牧菜にとってそれは初めての経験だった。
決して満たされていなかった訳ではない。ただ、両親や友達にはどことなく遠慮され、自分が楽しくても相手は楽しくないのでは無いかという疑念からあまり本気で感情をぶつけることもなかったのだ。
『大丈夫やて、長いつきあいやろ?』
『今のは面白かった』
『あほ、お前のツッコミのお陰や』
『そっかなぁ……へへっ、私もなかなかツッコミスキルに磨きが掛かってきたかな?』
『お前な、この町じゃそれがデフォルトやで?』
港人は自分の爪楊枝で手元のパックに入ったたこ焼きを刺し、牧菜の口に運ぶ。彼女はそれをはむっと口にした。
『やっぱり美味しいよ』
『気のせいやろ、同じもの買ったんやから』
『ううん……港人君が食べさせてくれたからだよ』
『……な、何ちゅう恥ずかしい台詞を……』
『はい、あ~ん』
『あ~ん……』
ついつい乗せられてしまうのが港人の良いところだ。牧菜がくれたたこ焼き、美味しすぎたが体が熱くて味も良くわからない。
『また、来ようね』
『絶対連れてくわ……せやから、無事帰ってきてn』
『おやぁああ、近衛港人さんじゃありませんかぁあああ???』
ねっとりとした嫌なだみ声が後ろから聞こえた。港人は心臓を握られるような寒気を感じ震える。
背後から感じるどす黒い殺気は一つや二つではなかった。
---------------------------------------------------------------
割と半端な所で区切っていますが、まあ仕方ない。
ちなみに2と3の間には港人の乱闘シーンがあるのですがカットされています。まあそのせいで『死亡フラグ仕事しろ』状態になっているのですが。この手法は以前似たようなのを使った事があって、好評だったのでもう一度ここで使ってみました。
この辺までは予定通りなのですが、この先がちょっとねぇ……本編の主題に足を踏み入れるので、一応説明を入れるにしても少し突飛になってしまうかもしれませんが。
もっと技量があればもっと魅せられるのにとか思っちゃいけないんだ。文句があるなら書いてみると良い、その大変さたるや、もうそれはそれは。後書きたく無い場面を書いてる時もテンション下がります、書くのが難しい場面(つーか次)や個人的に好きじゃない場面(次の次)は特に。
そんな訳で、この先を書くのが非常に億劫だった訳であります。もう書いてますが、全部載せるとあまりに長いのでこの辺で切った訳です。足あと見て概ね皆読んだと思ったら次をば更新。
昨日の豪雨も嘘のように、春の如くぽかぽかとした昼時、港人は牧菜に呼び出された。基本港人が暇な時間に(=ほぼ毎日)病室に遊びに行くので彼女から呼び出すことはあまりない。
それもあって期待と不安が七分三分くらいで走ってきたのだが、対面して期待は消え失せた。
元気がない。スミレのように儚くも可憐な美しさがあった彼女がしおれて折れてしまいそうでもあった。
『あのね……ホントはずっと前から言うつもりだったんだけど、言い出せなくてごめん……手術、受けようと思うんだ』
『そっか……不安なはずや』
『先生の話ではね、最近見つかった方法で、成功率も高いらしいんだけど……』
『そっか、ならええやん』
『ここじゃないもっと大きな病院に行かなきゃいけないし、やっぱり体の中をいじられるのって不安だよ。それに……港人君にずっと会えないし』
『……………』
それは……彼だって一緒だ。マキナに会えないのは淋しい、それでも自分の都合は押しつけられない。だが、彼女もまた離れることを望んでいなかった。
『……俺かて、一緒や。マキナに1日以上会えへんなんて想像もつかないねん。せやけど、行ってこいや。無事に治ったら、何処にでも俺の原付で連れていったる』
『原付……って、ミナト君免許持ってないじゃん!』
『お前なあ、細かいこと言うなや。親父から盗んだ原付で走り出そうや。バイクやのうて勘弁な』
『もう、色々問題だよ……ふふっ』
笑みが戻る。枯れかけた一輪の花を潤す水の一雫、それは彼の言葉だった。
『ねぇ、ミナト君……お願いがあるんだ』
『……何や?』
『……離れる前に、この町の景色を覚えておきたくて』
『分かった』
『ええぇっ……で、でも私外出厳禁だし』
『敷地内を車椅子で散歩するのはええやろ。そして、ミナトさんは方向音痴やから、うっかり敷地から出てまうやもしれん』
二人は声を殺して笑う。悪戯をする子供のように。
『……どこに行きたい?』
『えっとね、とにかくこの町の自然の香りを覚えておきたい。通りを散歩したり、山に行ったり、商店街で美味しいもの食べたり……もう一度、白兎川に行きたいな』
二人が初めて病院を抜け出して行った場所。特に何もないが、二人の、規則に対しての初めての冒険の場所。
『よし、行こか』
『うんっ!!!』
『うわ~広いね~、山登りなんて初めてだよ、以外ときつくないもんだ』
『せやな~……って何でやねん!!!!!! オレが此処まで押してきたんやないか!!』
『ミナト君、ノリツッコミ零点』
『が~ん……』
『あっ、あれ食べたい!!!』
『たこ焼きか……食べたらあかんとか無いんやな?』
『体調管理はばっちりです』
『すんまへん、たこ焼き二パック下さ~い』
『あ、私もそれで~』
『四つも食わへんよ!!!?』
『氾濫してんな……』
『私達も病院の決まりに反乱してるから良いじゃん』
『うん、何というか、参りました』
『うむ、宜しい』
昨日あれだけの豪雨に見舞われれば水かさも増し流れも酷いことになっていた。こんな川に落ちたらオリンピッククラスの猛者でもきつい。
河原の小石がゴツゴツするのでミナトは慎重に車椅子を押して進む。
からっと晴れたこの河原は絶好のピクニック日和だったけれど、生憎弁当などは持ってきていないので、さっき購入したたこ焼きを食べることにした。
『はふっ、あふっ、もっと冷めてると思ったよ~』
『そりゃあ何よりや、あったかいもんは冷ませるけど、冷えたもんはどうにもならへんからな』
二人はそよぐ風を楽しみ、流れていくソースと鰹節の風味を鼻先で愛でながらたこ焼きをぱくついた。
その刹那、右から鋭い一撃が間隙を縫って衝き込まれる。
『おっと、その手には乗らへんで牧菜』
『何かミナトのがおいしそうな気がする』
『そう言うの、隣の芝生は青い言うんやで』
『私とたこ焼きとどっちが大事なの!?』
『ん~……』
『悩むなっ!!!』
そう言って二人は笑い転げた。病室に拘束され外界と隔絶された牧菜にとってそれは初めての経験だった。
決して満たされていなかった訳ではない。ただ、両親や友達にはどことなく遠慮され、自分が楽しくても相手は楽しくないのでは無いかという疑念からあまり本気で感情をぶつけることもなかったのだ。
『大丈夫やて、長いつきあいやろ?』
『今のは面白かった』
『あほ、お前のツッコミのお陰や』
『そっかなぁ……へへっ、私もなかなかツッコミスキルに磨きが掛かってきたかな?』
『お前な、この町じゃそれがデフォルトやで?』
港人は自分の爪楊枝で手元のパックに入ったたこ焼きを刺し、牧菜の口に運ぶ。彼女はそれをはむっと口にした。
『やっぱり美味しいよ』
『気のせいやろ、同じもの買ったんやから』
『ううん……港人君が食べさせてくれたからだよ』
『……な、何ちゅう恥ずかしい台詞を……』
『はい、あ~ん』
『あ~ん……』
ついつい乗せられてしまうのが港人の良いところだ。牧菜がくれたたこ焼き、美味しすぎたが体が熱くて味も良くわからない。
『また、来ようね』
『絶対連れてくわ……せやから、無事帰ってきてn』
『おやぁああ、近衛港人さんじゃありませんかぁあああ???』
ねっとりとした嫌なだみ声が後ろから聞こえた。港人は心臓を握られるような寒気を感じ震える。
背後から感じるどす黒い殺気は一つや二つではなかった。
---------------------------------------------------------------
割と半端な所で区切っていますが、まあ仕方ない。
ちなみに2と3の間には港人の乱闘シーンがあるのですがカットされています。まあそのせいで『死亡フラグ仕事しろ』状態になっているのですが。この手法は以前似たようなのを使った事があって、好評だったのでもう一度ここで使ってみました。
この辺までは予定通りなのですが、この先がちょっとねぇ……本編の主題に足を踏み入れるので、一応説明を入れるにしても少し突飛になってしまうかもしれませんが。
もっと技量があればもっと魅せられるのにとか思っちゃいけないんだ。文句があるなら書いてみると良い、その大変さたるや、もうそれはそれは。後書きたく無い場面を書いてる時もテンション下がります、書くのが難しい場面(つーか次)や個人的に好きじゃない場面(次の次)は特に。
そんな訳で、この先を書くのが非常に億劫だった訳であります。もう書いてますが、全部載せるとあまりに長いのでこの辺で切った訳です。足あと見て概ね皆読んだと思ったら次をば更新。




