この人は、さまざまななにか。

十代の終わりから二十代後半にかけて、この人はわたしを助けてくれた恩人で、

先生で、お父さんで、お母さんで、なんでも知っている預言者で、魔法使いで、

ひょっとしたら神さまで、ほかにもいくつかの『なにか』でした。

この人はわたしに、眠るところも、食べるものも、着るものも、

家族の愛さえもくれました。


ところがあるときから、わたしはめまいが止まらなくなりました。

この人が自分にとって、あまりにもさまざまななにかであることに気づいたからです。

いたたまれなくなって飛び出したものの、わたしはすべてを失いました。

そうして今に至るまで、見つけることができずにいます。


ひさしぶりに会ったとき、この人は大きな花びんにカサブランカをいけていました。

そうして、あちこち歯の抜けた口を開けて、浮浪児のように笑ったのでした。


via 手紙屋ヨルノマチ
Your own website,
Ameba Ownd