この人は、さまざまななにか。
十代の終わりから二十代後半にかけて、この人はわたしを助けてくれた恩人で、
先生で、お父さんで、お母さんで、なんでも知っている預言者で、魔法使いで、
ひょっとしたら神さまで、ほかにもいくつかの『なにか』でした。
この人はわたしに、眠るところも、食べるものも、着るものも、
家族の愛さえもくれました。
ところがあるときから、わたしはめまいが止まらなくなりました。
この人が自分にとって、あまりにもさまざまななにかであることに気づいたからです。
いたたまれなくなって飛び出したものの、わたしはすべてを失いました。
そうして今に至るまで、見つけることができずにいます。
ひさしぶりに会ったとき、この人は大きな花びんにカサブランカをいけていました。
そうして、あちこち歯の抜けた口を開けて、浮浪児のように笑ったのでした。