やえたんは乱暴者だった。
ダーリンが何度も手を穴だらけにされたのを
目の当たりにし、猫にちょっとした恐怖心を持った私はなかなかやえたんを触れなかった。
そんな控えめの接し方が
彼女の気に入ったのだろうか
やえたんはゴロゴロと喉を鳴らし
私をとても好いてくれていた。
そして3年もするとやえたんはすっかり
甘えん坊に育ち上がった。
しかし彼女は抱っこがあまり好きではない
私はテレビやブログやインスタで抱っこ抱っことせがむ甘えん坊のよその子が羨ましくて仕方がなかった。
それでも曲がりなりにも一瞬だけ抱っこ、いや抱っこというより持ち上げられるようになった頃、やえたんは急逝してしまった。
今、臆病者の佑(たすく)を迎え、
ご飯の時しか撫でさせてくれず
一向に甘えん坊にならない彼と暮らしながら
やえたんとの甘い日々を懐かしく思い出すのだった。
さてある日私は床に落ちている宝物を見つけた。
佑の爪である。
パッコリ スッポリ綺麗に剥けて落ちている。
あら素敵なんて綺麗なの♪可愛い~💕
とか言ってる場合じゃない。
ここまで鋭く尖って伸びた爪は私達にも佑にも危険な凶器になる。
散歩するワンコと違い
室内飼いの猫は自然に爪は磨り減らない。
「爪研ぎあるでしょ?」
あるさもちろん!家中のそこかしこに。
しかしそれはなんの解決にもならない。
爪研ぎで爪を研げば研ぐほどそれは鋭く尖る
猫の爪とはそういう代物なのである。
爪切りは猫飼いの宿命である。
前回は結局1本しか爪を切れなかった。
今度こそは…
期は熟した
さあ佑をふんづかまえて
ダーリンが がっちりホールドして
私がその間に爪を切る。
にょおお~ん なおお~ん
なんちゅう声でなくのよ
両手まではいけたが足までは無理だった…
奮闘の末ダーリンは手を噛まれ
切れなかった足の爪で返り討ちに会い
名誉の負傷の代償に
佑に盛大に嫌われた。
ダーリンの腕は猫と暮らす限り
またしても年中傷だらけなのである。
そして私はよそん家のおとなしく爪を切らせてくれて且つ甘えん坊のネコが羨ましくて仕方なくなるのである。