結婚した最初の年明け、夫にこんな事を言われた。


「実はな…我が家の一員になったからには、年明け毎回行っている事があるんだが、お前にも協力してもらうぞ」


重々しい口調で告げられ、そして夫は高らかにファンファーレを口にした。


「デンデンデンデン…パンパカパーン!

第一回!我が家の!流行語大賞!」


……。

急に明後日の壁を指差し、宣言した夫をぽかーんと見返したときの事は未だに覚えている。


我が家では、年明けと同時に、毎年恒例で去年最も我が家で流行った、流行語大賞を決めなければならないのだ。


この流行語なのだが、我が家でしか通じないワードなのがミソだ。

私の舌足らずや、焦ったときの言い間違いを絶対に聞き漏らさず、おもしろ言葉としてしつこく繰り返して日常に定着させる夫。

新しい言い回しや略語を考えるの大好きマンな夫。


流行語までは全く至らなかったが、「田作り」が「たごさく」になってしまったのも、そんな夫のせいなのは間違いない。ある年末、正月用の買い物をする際のことだ。

「かまぼこは忘れるなよ!あと適当におせちと、あとアレだ。アレアレ」

「ああ、アレね、分かってる、あなたアレ大好きだから忘れないよ…アレ…

たごさくみたいなやつ!」

それ以降、哀れ「田作り」の「たごさく」呼びが定着してしまった。いや、ちゃんと思い出した後になっても、「たごさく」呼びを続けた夫が悪い。


流行語大賞になったワードだが、基本的には私の言い回しや言い間違いを夫が大袈裟に取り上げて、無理矢理普段使いにしたものがほとんどだ。


去年の決まった、2人で決めるのが最後となった流行語大賞は、「すー」だ。

これだけ聞くと何のこっちゃだろう。2人でプレイしているスマホゲームで、ワープした時に通信の関係でキャラクターが一瞬だけ地面を滑っているような動作をするのだが、夫のスマホを覗いていて、キャラが滑るタイミングに合わせて「すー」と呟いたらバカ受けされたのがきっかけだ。

「すー、じゃ、ねえ!」

「何そのタイミングばっちりにすー、が出るんだよ!」

なんだかツボに入ったらしく、大仰に笑いまくる夫に、私は大真面目に返す。

「だって、この動きはすー、と言いたくなるでしょ!?私は自分のやつで、毎回心の中で、すー、って呟いていたよ!」

「いやまあ、うん、確かにすー、なんたが。こんなタイミングばっちりとか…」

夫のツボはよく分からないが、ツボに入った夫を見るのが楽しいので、私は何かにつけて「すー」を連呼するようになった。ふすまを開けたり閉めたりする際の効果音から、足音を立てずにわざわざ「すー」と言って通り過ぎるなど、涙ぐましい(?)努力により、見事に流行語大賞を飾った。


夫は基本、私の発信源ワードを流行語にしたい派らしく、夫の発信源ワードを候補にしても「そこまで流行っていない」「俺のは別にいい」と却下されるので、夫が発信源で、大賞となった流行語は一つしか無かったと思う。

「俺が選んだコーディネート」を略した「俺コー」だ。

夫が競馬で勝って、私の誕生日に上から下まで服や靴を揃えたい!と奮起し、グレーのコートと帽子、ブーツを買ってくれた。とても気に入ったらしく、「まさにパーフェクト俺コーだな!」と言っていた。それから年明けまでの2か月、私が「俺コー」を使いまくって見事に流行語大賞が決まった。


「なによ」が無茶苦茶流行って、流行語大賞に入った年もあれば、私が作詞作曲した「どうなる」が大賞になった年もある。


流行語にすらならないが、「傘を差すまでではないパラパラ雨」を「ヨダレ」と呼んだり、一万円札を渡して「ひゃくまんえんね」と言ったり、「業務用スーパー」は「ぎょーむす。(モー娘。的な言い方)」だし、いきつけの安い八百屋は「すごやお(すごい八百屋の略)」だし、我が家は隠語に溢れていた。


これ、どの家庭でもある程度はあるあるでは無いのだろうか?

互いしか理解出来ない共有語があるのは、仲良しの秘訣の一つだと思う。流行語大賞やるまではいかなくても、おすすめしたい。


共有相手がいないのは、なんとも寂しいけれど。

去年、うちに来てくれた義妹夫婦が、ちり紙を「ちりし」と言い合っていたのを聞いてニコニコしたのだが、同時に少し切なくなった。