『金曜日の本屋さん』 名取佐和子 ハルキ文庫
自分は、本も好きだが本屋で本を探すことが特に好きだ。本屋さんを舞台にした小説なんだろうと興味をひかれた。
「“読みたい本が見つかる本屋”」とはなんて素敵な響きだろうと思った。主人公の倉井くんが見つけたネット上の噂でも、行ってみたいという欲には勝てる気がしない。
駅ナカ書店金曜堂は、明るい槇乃店長、物静かで長身、いい声で主に喫茶スペースのカウンターにいる栖川さん、金短髪でソフトスーツ、目つきの悪いいかにも…なオーナー、ヤスくんがいる。
槇乃店長は、その明るさと勢いが私には少し鬱陶しく感じた。しかし、過ぎる明るさが物静かに描写されている栖川さんと良いコントラストなのだろう。栖川さんの淹れるコーヒーやピラフは味わってみたい。ヤスくんは、話の中で何かしゃべる度にその口調に緊張してしまった。
この作品に出てくる登場人物大体に感情を振り回された気がする。それぞれの背景を知っても納得できないことや共感できないことが割と多くあった。
それぞれのカギになる本はどれも読んでみたいと思わせるものだった。
特に『白鳥の歌なんか聞こえない』が気になった。1話で登場する本だが、喫茶スペースで栖川さんが出したメニューがにくいことが読み進めて分かってくる箇所、倉井くんは「薫くん」じゃなかったし、お父さんも「薫くん」になることを求めてはいなかった箇所が気に入った。
そして、倉井くんが病気で細く弱っていく父親を見て「気持ち悪い」と思うのは、なんとなくだが分からなくはないなと感じた。 ありがたいことに、未だ近しい人が病気で弱っていく様を目の当たりにしたことがない。しかし、倉井君と近い状況になれば、同じようなことを感じ、考えてしまうかもしれないと思った。
読んでいて苦しくなったのは、第2話。寿子が私にはきつかった。読んでいて共感はできなかったが、理由は分かった。それでも息苦しいというか、何とも言えないつらさを感じた。今思えば、自分も気づいていない寿子と似ている部分がありすぎたからかもしれない。
最後の第4話では、疑問にも思っていなかった所に隠されていたものが明らかになった。キーが河童というのが良い。そして『家守綺譚』の冒頭について藪北さんが触れているが、それが気になった。読んでみたい本の一つに加わった。藪北さんが1~4話の中で一番好きなキャラクターだと思う。
読んでいて感情が行ったり来たりする経験は初めてだった。この作品を読んで、描写が映像としてはっきり浮かんでくるようだった。だから余計にほっとしたりイライラしたりハラハラしたりしたのかもしれない。
金曜堂のメンバー、特に槇乃店長についてはあまり触れられていないように思えた。自分が読み取った槇乃店長は、ゆるくウェーブのかかった胸までの髪、クリっと大きな目、本に対する膨大な知識量と愛情を持っている、金曜堂の3人は高校の同級生で「金曜日の読書会」のメンバー、とてもとても明るいということだ。ここまで分かれば十分な気もするが、幼少期や金曜堂を始めたきっかけも気になる。そして、ジン君だ。栖川さんとヤスくんとのエピソードそれぞれで登場したが、槇乃店長とのエピソードやその後が気になる。想像力が足りないのか、行間が読めていないのかだろうが…
そして、地下書庫だ。一人では怖く感じてしまうだろう。しかしそれでも行ってみたい!
どうしても気になるのが1つ。余計なお世話だろうが、カバーイラストの槇乃店長の髪が短い気がしている。右京さんではないが、細かいところが気になる悪い癖だ。