「ごめん、あたし無理だわ、あんたと付き合えない、無神経な人、嫌いだから。」

稜からの初めの電話に律は冷たく言い放った。

「律、なんで・・・俺、わからない。」

「わからない人にわかってもらう気ないから。」

電話を切る。すぐに電話が鳴る。律は出ない。

稜は降りしきる雨の中、携帯を握り締め、律の部屋の窓を見上げる。


律が無理と言った理由。
稜と付き合い出して1ヶ月。
付き合ってるんだか、付き合ってないんだか分らないような付き合いだった。

付き合って欲しいと言われたのも、人伝だった。
稜は律の親友香菜の従兄で、ある日、香菜に誘われ、ファミレスに行くと、
そこに香菜の彼、峻と稜が座っていた。
良く分らない状況で時間だけが過ぎ、帰り間際に、香菜が律に言った。

「律、今、彼氏、居ないよね?稜と付き合ってみない?」

「別にいいけど・・・」

律は、どっちでもいいと思いつつ、曖昧な返事をした。
その日から、どうやら付き合い出したようだった。
香菜を介して携帯番号とメルアドを交換した。
だからと言って、電話が掛かってくるワケでもなく、メールがあるワケでもなかった。

誘いもいつも香菜からで、香菜の彼氏が一緒だったり、香菜と3人だったりと、
大学生にもなって、常にグループ交際だった。
稜から律に話しかける言葉は少なく、香菜の彼、峻との会話の方が盛り上がった。
帰りは、駅で別れ、稜が律を家まで送る。
手を繋ぐワケでもなく、キスをしようとするワケでもない。
ただ、少ない会話をしつつ、家に着くと、じゃぁと言って別れる。

1ヶ月が経ったその日も、香菜からの電話で、ディズニーランドへ行く事になった。
峻は、香菜が喉が渇いたと言えば、ジュースを買いに行き、
キャラメルポップコーンが食べたいと言えば、一緒に並んでいた。

「ちょっと喉渇いたから、買って来る。要る?」

稜は、返事をしなかった。律は、一人でジュースを買いに行った。
そして、3人の所に戻ると、稜の手に、ジュースがあった。

はぁ?何故、一言、聞かないの?あたしは聞いたよね?返事しなかったよね?
呆れた。切れた。

「ごめん、あたし無理だわ、あんたと付き合えない、無神経な人、嫌いだから。」

そう言って、律は、一人で、即刻ディズニーランドを後にした。
勿論、引き止める言葉も、電話も、追いかける姿もなかった。

家に戻り、夜になり、のんびりしていると、電話が鳴った。

「わからない人にわかってもらう気ないから。」

そう言って切った。
稜は、電源の切られた電話に何度も電話しながら、窓を見上げた。
暫くして律は電源を入れた。
電話が鳴る。香菜からだった。

「律、ごめん、でも稜、悪気はないの。」

「でも、無理。」

「違うの、律の事、好き過ぎて、話せないの。」

「あ、そう。じゃ、一生、話さなきゃいいんじゃない?」

「ホントは、よく喋るし、面白いし、カッコイイでしょ?」

確かに外見はカッコイイ方だと思う。
背が高く体つきもガッシリしていて、適度に鍛えられてる。

「あのさ、外見が良ければ、何でも許されると思う?」

「律、お願い、無理なら無理でいいから、稜と話してあげて。律がどうしたいか。」

「面倒。」

「お願いだから、ね?1回だけでいいから。稜、下に居るから。」

「だから、そういうのを、年下の従妹に頼む神経が嫌なの。」

「分るよ、あたしだって逆だったら、気持ち悪いよ。」

「でしょ?」

「でも、すごく男っぽいから。」

「そうは思えないけど?」

「律と合うと思う。マジで。」

「あたしはそうは思えないけど?」

そう言いながら、窓の下をチラっと見る。稜が立っている。

「外に居る。」

「でしょ?雨降ってるし・・・稜、律が電話に出るまで諦めないよ。」

「ストーカーじゃん。」

「もう、あたしから誘ったりしないから、これが最後だから、ね?」

「香菜がそこまで言うなら、今回だけね・・」

律は、仕方なく、傘を持って、外に出た。
稜は、ズブ濡れで律の姿が見えると1歩前に出た。

「なに?」

「律・・・なんで?」

「こっちが聞きたいよ、なんであたしなの?」

「律が好きだから・・・」

「初めて聞いた。稜の口から。」

律が傘を差し出したが、稜は受け取らない。

「もう俺と、付き合えないって?」

「この1ヶ月、付き合ってたの?全然実感ないけど。」

「俺は彼女だと思ってた。」

「あたしは彼氏と思った事は一度もない。」

「俺が嫌い?」

「好き嫌い以前の問題でしょ?友達以下でしょ?」

「・・・律が好きだから・・・俺と付き合って欲しい。」

「最初から自分で言えば?香菜に頼む神経が分らない。ねぇ、稜の付き合うって、どういう感じ?」

「普通だよ、みんなと同じだよ。」

「あ、そう。少しも普通と思えないけど?」

雨が強くなって風も出てきた。
傘を差しても濡れてしまうので、律は面倒になった。

「まぁ、いいや、話は、また今度ね。」

「待って、律。」

「わかった、もう少し付き合うから、今日は帰って。」

「明日、会える?」

「また4人で?」

「2人で。」

「わかった。」


翌日、初めて2人で会った。確かに、今までより、少しは話していた。
それでも、何だか、気持ちが盛り上がらなかった。

「律、俺の家、来ない?」

「止めとく。帰る。」

「じゃぁ、律んち、行っていい?」

「それも止めとく。帰る。」

「もう少し、一緒に居たい。」

「また、今度で。」

律が席を立つと、稜も席を立ち、店から出た。
律の家に着くと、稜は律の腕を掴んだ。

「家、ダメ?」

「止めとくって。」

「明日、会える?」

「また、今度で。」

「いつ?」

「来週。」

「電話していい?」

「それって聞く事?あのさ、普通に付き合った事ある?」

「あるよ。」

「どんな?」

「電話して、会って、キスしてって。」

「そう。そういう付き合いがしたいの?」

「そうだよ。」

「そうは思えないけど?じゃ。」

律はさっさと家に入ってしまった。
稜は、気持ちを伝えられないもどかしさを抱えたまま、律の部屋を見上げた。


峻と稜は友達同士で、理系の大学院生。
稜は香菜に頼まれ大学の合同サークルに顔を出した時、律を初めて見た。
気の強そうな顔、みんなと笑ってる顔、冷めた顔、どの顔も、魅力的だった。

「稜、どう?」

「悪くないね。」

香菜の問いに頷く稜。そして翌日、ファミレスに律が現れた。
帰りに香菜が言った。

「律、付き合うって。」

「彼女にしたい・・・いいよな?」

香菜は、そんなに気に入ったんだ?と言いた気な目で稜をみた。
稜が照れくさそうに笑った。