『あなたは、いったい、ぼくが好きだったのでしょうか。』
田中英光『オリンポスの果実』より
体格が良いからと誘われ漕艇オリンピック選手にまでなってしまった文学青年の恋と苦悩の物語。
青い空、果てない海。昭和体育会系の空気に馴染めず鬱屈し、しかし競技には前向きな主人公・坂本。その前に現れたのは、同じく日本選手団の少女・秋子。彼女の飾り気の無い人柄に惹かれていく主人公だが、心無い噂に振り回されて──という感じのお話。
田中英光先生御自身がオリンピックの漕艇選手だった経験を活かして書かれた作品で、私小説風ですがフィクションだそうです。
お話はヒロインの秋子に宛てた手紙という形で綴られます。その為ずっと主人公目線なので、女心に敏い方なら首を傾げるであろう場面も所々に。わざとそうした演出にしているのでしょうか。主人公の主観を取り払って秋子の行動だけ追ってみると主人公の悲哀が浮き彫りになると申しますか……どんまい主人公。
秋子から貰った杏の実を食べ、種をずっと持っていて、そのまま植える事もせず最終的には捨ててしまうのが何だか主人公の独り善がりな片想いを象徴するようだなと思ったのです。
ところでこの作品の題名は当初『杏の実』としていたのを、師匠である太宰治先生が『オリンポスの果実』と改題させたのだそうですね。
今回作ったのはノンアルコールのブルーハワイ、テキ(作中でそう呼ばれたいますが恐らくステーキの事かと)、付け合わせに玉葱サラダを。ソースは杏の種の粉末を使ったクリームソース。手前の杏の種はあしらいです。
実は生で食べても美味しいハーコットという種類の杏を手に入れたのでこれを作ろうと思い立ったのですが、坂本の恋を象徴するのは杏というより食べ終わった後の種のような気がしたので、あえて杏の実は使っていません(杏の実を添えたバージョンも作ったのですがどうもしっくり来なかったのです)。
余談ですが杏の種にはアミグダリンという成分が含まれていて、咀嚼するとシアン化物になるんだそうです。ただ、正しく扱える人が扱えば薬にもなるそうな。
ちなみに杏シロップやアマレット等の砂糖漬け・お酒漬け抽出液は無害だそうです。ただ、漬けても仁は食べてはいけないらしい。なかなか奥深いものですね。
今回のソースに使っているのは精製された杏の種の粉末を少量なので問題無いかと。