『思切つて目を瞑つて手から離すと、線路で碎ける音が痛いやうに響いた。胸を轟かせながら座に戻つて、「物を壊すといゝ氣持ちね」と、小聲で云つた。』


正宗白鳥『微光』より


妾業の女性、お國のお話。

一度は一人の男性と結ばれ出産するも子供とは引き離され、成り行きで妾になり、旦那方からはあくまでも妾としてしか相手にされず。愛されたがりで強がりで臆病な女性の、もののあはれを描いたお話です。

印象的だったのは罎を投げる場面、それに別れの手紙を投函する場面の心の揺らぎです。本音では気が引けているのに行動してしまい、その残響がしばらく頭から離れない。破壊的な行動に乗せるのが怒りや狂気ではなく、本質的な心の弱さというのが印象的でした。

何も始まらないし結局何も終らない。このお話自体がお國の人となりを表しているようです。

最後は気持ち前向きに終るので、お國がその後誰かと幸せに暮らしたことを祈ります(虚無感を醸す正宗白鳥作品でそんな事にはならないだろうと思いつつ)。




今回作ったのは水蜜桃の日本酒コンポート、サイダ羮、割れた罎をモチーフにした飴細工。

サイダの罎を投げる場面を取り入れたかったのです。

水蜜桃をコンポートにするのは勿体無いのではとも思ったのですが、日本酒と桃、良い組み合わせでした。砂糖は控えめに、火を通し過ぎないのも良かったかもしれません。