『弾を浴びた島


 島の土を踏んだとたんに

 ガンジューイとあいさつしたところ

 はいおかげさまで元気ですとか言って

 島の人は日本語で来たのだ

 郷愁はいささか戸惑いしてしまって

 ウチナーグチマディン ムル

 イクサニ サッタルバスイと言うと

 島の人は苦笑したのだが

 沖縄語は上手ですねと来たのだ』



『鮪に鰯


 鮪の刺身を食いたくなったと
 人間みたいなことを女房が言った
 言われてみるとついぼくも人間めいて
 鮪の刺身を夢みかけるのだが
 死んでもよければ勝手に食えと
 ぼくは腹だちまぎれに言ったのだ
 女房はぷいと横むいてしまったのだが
 亭主も女房も互に鮪なのであって
 地球の上はみんな鮪なのだ
 鮪は原爆を憎み
 水爆にはまた脅やかされて
 腹立ちまぎれに現代を生きているのだ
 ある日ぼくは食膳をのぞいて
 ビキニの灰をかぶっていると言った
 女房は箸を逆さに持ちかえると
 焦げた鰯のその頭をこづいて

 火鉢の灰だとつぶやいたのだ



『かじまるの木


 ぼくの生れは琉球なのだが
 そこには亜熱帯や熱帯の

 いろんな植物が住んでいるのだ

 がじまるの木もそのひとつで
 年をとるほどながながと
 気根 ひげを垂れている木なのだ
 暴風なんぞにはつよい木なのだが
 気立てのやさしさはまた格別で
 木のぼりあそびにくるこどもらの

 するがままに

 身をまかせたりしていて
 孫の守りでもしているような

 隠居みたいな風情の木だ



山之口貘『鮪に鰯』より



8月15日は終戦記念日でしたね。

という事で戦後文学でひとつ作ってみました。

沖縄出身の山之口貘先生が綴られた戦後の詩集。といっても日常を描いた素朴で諧謔的な詩も多く、その生活の中に当たり前のような顔をして戦争の爪痕が在るのです。それがよりリアルな痛みを感じさせる。

沖縄もまた気楽に遊びに行けるようになると良いなあ。




今回は鰯の丸干しを焼いたものに鮪のお刺身、シークヮーサーとブレンドスパイスを添えて。


スパイスは主に唐辛子。灰のイメージで竹炭も少し加えてあります。醤油にコーレーグースを垂らしたものを添えるというのも考えたのですが、灰のように見せたかったのでこちらにしました。