『時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。』


田山花袋『蒲団』より



妻子ある作家が女弟子へ抱いた密かな恋心を赤裸々に描いたお話。日本の自然主義文学を語る上で欠かす事の出来ない作品ですね(注:海外の自然主義文学と日本の自然主義文学は別の物)。私小説の原点とする声もあります。ブログ主は高校の時に題名と著者名だけ習っていました。

実際に読んでみて個人的に一番印象深かったのは、

「(前略)時雄は机の抽斗を明けてみた。古い油の染みたリボンがその中に捨ててあった。(後略)」

の部分でした。

抽斗の中にあったものを差して、入っていた、忘れられていた、置いていかれていた、等ではなく「捨ててあった」。時雄が恋の終りをどう感じていたかを示す言葉だと思ったのです。その後、薄暗い部屋の中、蒲団の上で泣く場面はもののあはれというのか、哀愁を一層深く感じたのです。

ところで、匂いを嗅ぐのは相手の同意を得てからになさいませ。

(当時は妾というシステムがあったので浮気とも少し違うのかもしれませんが、それにしても妊娠してる奥様ほっぽらかして女弟子に恋をするのはどうなんでしょうね)




今回作ったのは、萌黄唐草の蒲団をイメージした空豆のテリーヌと胡瓜のリボンサラダ。

冷製で匂いに癖があるものをと思い、空豆の独特な匂いを活かす方向で作ってみました。バジルマスタードソースを添えて。どちらかというと掛け布団に見えますね。