『毎日々々雨が降ります
去年の今頃梅の実を持って遊んだ弟は
去年の秋に亡くなって
今年の梅雨(つゆ)にはいませんのです
お母さまが おっしゃいました
また今年も梅酒をこさおうね
そしたらまた来年の夏も飲物(のみもの)があるからね
あたしはお答えしませんでした
弟のことを思い出していましたので
去年梅酒をこしらう時には
あたしがお手伝いしていますと
弟が来て梅を放(ほ)ったり随分(ずいぶん)と邪魔をしました
あたしはにらんでやりましたが
あんなことをしなければよかったと
『少女の友』昭和十二年八月号より、中原中也・作
梅雨、梅仕事の季節。日常の一部がぽっかり欠けてしまった少女の詩です。
全体的に丁寧で柔らかい言葉を使っているのが、虚ろで、無力感というか……かえってその底に潜むものを感じさせる気がします。
これは梅雨二題の内の一作で、もう一作は『少女と雨』。そちらは物憂げな少女が雨降る花畑を見ている場面を描いた詩です。
ところで、当時は子供も梅酒を呑んでいたのだろうかと疑問に思ったので調べてみました。未成年の飲酒が禁止されたのは大正11年4月1日。この詩が書かれた頃は既に禁止されていたので、これは御自身の体験と置き換えられているのかもしれないなと思ったのです。時期的に御子息様の事が思い出されますね。本当のところは分かりませんけども。
今回作ったのは梅酒ソーダ、梅ゼリー、小梅の砂糖漬け、透明のポテトチップス。
炭酸の方が雨感が出るかなと思い、炭酸割りにしてみました。
今年はちょうど梅仕事を始めた日に雨が降っていて、この詩をテーマに作ろうと思ったのです。