『うたふやうにゆつくりと....
日なたには いつものやうに しづかな影が
こまかい模様を編んでゐた 淡く しかしはつきりと
花びらと 枝と 梢と──何もかも……
すべては そして かなしげに うつら うつらしてゐた
私は待ちうけてゐた 一心に 私は
見つめてゐた 山の向うの また
山の向うの空をみたしてゐるきらきらする青を
流されて行く浮雲を 煙を……
古い小川はまたうたつていた 小鳥も
たのしくさへづつてゐた きく人もゐないのに
風と風とはささやきかはしてゐた かすかな言葉を
ああ不思議な四月よ! 私は 心もはりさけるほど
待ちうけてゐた 私の日々を優しくするひとを
私は 見つめてゐた──風と 影とを……』
『Ⅰ 憩らひ
─薊のすきな子に─
風は 或るとき流れて行つた
絵のやうな うすい緑のなかを、
ひとつのたつたひとつの人の言葉を
はこんで行くと 人は誰でもうけとつた
ありがたうと ほほゑみながら。
開きかけた花のあひだに
色をかへない青い空に
鐘の歌に溢れ 風は澄んでゐた、
気づかはしげな恥らひが、
そのまはりを かろい翼で
にほひながら 羽ばたいてゐた……
何もかも あやまちはなかつた
みな 猟人も盗人もゐなかつた
ひろい風と光の万物の世界であつた。』
『Ⅳ 薄明
音楽がよくきこえる
だれも聞いてゐないのに
ちひさなフーガが 花のあひだを
草の葉のあひだを 染めてながれる
窓をひらいて 窓にもたれればいい
土の上に影があるのを 眺めればいい
ああ 何もかも美しい! 私の身体の
外に 私を囲んで暖く香よくにほふひと
私は ささやく おまへにまた一度
──はかなさよ ああ このひとときとともにとどまれ
うつろふものよ 美しさとともに滅びゆけ!
やまない音楽のなかなのに
小鳥も果実も高い空で眠りに就き
影は長く 消えてしまふ──そして 別れる』
立原道造『優しき歌 Ⅰ』より
『優しき歌』にはⅠとⅡがあるのですが、普通にⅠから出版されたのだと思っていました。『優しき歌 Ⅱ』が当初『優しき歌』として出版され、その後『優しき歌 Ⅰ』が出版されたのだそうな。全体通して一番好きな詩がⅠにあるので今回はこちらをテーマに作ってみました。
やわらかな時と、失われた哀しみと。儚いものを、または幸福や美しいと感じたものをきれいな言葉で飾る純粋さがただただ眩しい。
花、風、空、草。自然に心を映しているものが多く感じます。言葉選びがとにかく可憐。もはや感性が可憐。
今回作ったのは……これ何でしょう、レアチーズタルトかな。ほぼほぼレアチーズケーキ。梢の中を流れる浮雲のイメージです。生クリーム多め、流れないけどギリギリ固まらないレアチーズクリームをぽってりとのせています。
メロンソーダゼリーでうすい緑のなかを流れる風を表現。四月の花で梢と来たので桜の印象があったのですが、桜じゃなかったらどうしよう。違っていたら申し訳ありません。
パール状のものは、ホワイトチョコレートのシリアルパフにパールパウダーを薄くまぶしたもの。