当時を振り返り、堀先生が自身の人生の本質を見出だす物語。
今まで読んで来た堀辰雄作品の洒落た雰囲気とは異なり、幼き日の時の底を覗くような、土の香りがするお話でした。
特に『入道雲』のたかちゃんとの帰り道が好きでした。ともすればただの酒飲み話になりそうなささやかな冒険ですが、堀先生の手にかかるときらきらとした宝物のように見えるのです。
お話の要所要所で登場する無花果の木ですが、一度も実を食べている場面が無いのはあえてそうしたのでしょうか。エピロオグでは枯木になってしまっているのですよね。あくまでも自伝的小説ですから、演出的な意図は無くたまたまそうなったのでしょうか。気になる。
ところで、作中に『赤ままの花』が登場するとは思いませんでした。邪推かもしれませんが、名前を出していないところに当時の彼等の難しさのようなものを感じます。リルケなどは名前を書いていますから、そういうことなのかな、と思ってしまいました。
今回は幼年時代を彩る無花果の木をイメージして、無花果のフルーツサラダを作ってみました。パイ生地でエピロオグの枯木を……と思ったのですが鹿の角に見えるのは気のせいです。