『安寿恋しや、ほうやれほ。
 厨子王恋しや、ほうやれほ。
 鳥も生あるものなれば、
 疾う疾う逃げよ、逐わずとも。』


森鴎外『山椒大夫』より


安寿・厨子王伝説の森鴎外版。原典から残虐さを引いているのでお話がすっと入ってきます。悪者を懲らしめるお話というよりは親子姉弟の絆に重きが置かれているように感じました。削った部分や改変した部分を見ると、鴎外先生は登場人物に理不尽な辛苦を与えるのを嫌う方だったのかなぁと感じます。何となく。安寿が身を投げる辺りに『高瀬舟』と通じる倫理観を感じたのです。



今回作ったのは干し貝柱を乗せたあわもち、蓮の実の煮物、ちりめん山椒。

あわもちには芽葱をのせ、干し貝柱でとった出汁にお好みの量の塩を溶かし、それを上からかけて完成です。あわもちと干し貝柱は母親の、塩を混ぜた出汁は安寿と厨子王のイメージです。塩と芽葱は潮汲み芝刈りから。混ぜて家族が一つになるように。

『女は雀でない、大きいものが粟をあらしに来たのを知った。そしていつもの詞を唱えやめて、見えぬ目でじっと前を見た。そのとき干した貝が水にほとびるように、両方の目に潤いが出た』の辺り。

それから親子を分けるように中央にちりめん山椒を置いてみました。かなりの辛口です。

そして地蔵菩薩様のイメージで、蓮の実の炊いたものをそれぞれの器の横に添えました。出汁とお塩でほっくり炊き上がりました。ちりめん山椒でピリッとしたら辛みを抑えるのに食べると丁度良い感じです。ほんのり甘くて栗のような食感。



八百屋さんに実山椒が売っていたので作ってみました。