『──あのね。(この「あのね」は高勢某のおはこの、滑稽な、だが私の恐ろしく嫌いな「あのね」にちょっと似ていた。)──あたし、今までおたくが倉橋さんとは知らないで、つきあっていたけど、──実はあたしと倉橋さんとの間には、とても妙な因縁があんの』


高見順『如何なる星の下に』より


主人公、倉橋の恋を中心に巡るお話。
浅草の街一つを舞台とし、人々は役者さながらに様々な人間模様を描きます。最終回前回、最終回と、模様が入れ替わるのも見所。現代小説の叙述トリックを読み慣れているのでそこまで驚かなかったのですが、この頃に書かれたお話かつ推理小説以外で、これだけしっかり伏線が張られているものは珍しい気がします。

第七回の突然の日記風文体に突っ込みを入れたくなったのは私だけではあるまい。

それに所々ユーモラス。憧れの小柳雅子との会食中、ひとりまくし立てる朝野に対して、無言からの独白『私は雅子と話がしたかった!』には思わず笑ってしまいました。
かと思えば、悲哀も感じ取ることが出来る。
ハッピーエンドかと言われればそうでもないのですが、案外前向きになれるお話のような気がします。

ところで作中に当時の浅草周辺が描写されているのですが、合羽橋や今半など登場する度に現在の街並みが二重写しになり、足元がふわふわするような不思議な感覚がしました。
(読んでいて立地に違和感を覚え調べてみたところ、当時の今半は現在とは違う場所にあったそうな)




今回作ったのはお話の発端となる『風流お好み焼──惚太郎』からお好み焼き、もう一つのメイン舞台になるK劇場レヴィウの踊り子をイメージした鰯罐詰の生春巻。

惚太郎はもしや浅草のお好み焼き屋『染太郎』がモデルになっているのではと思い(染太郎には高見順先生も行かれていたそうです)、それなら広島風であろうと予想。作中のお品書きに登場するいかてんを作ってみました。
キャベツ、豚挽き肉、ゲソ、やきそば、玉子。

生春巻はほぼサラダ。
鰯の罐詰、スライスレモン、イタリアンパセリ、玉ねぎ、レタス。
作中で鰯の罐詰と揶揄されていた踊り子たちに『白い透き通るふわふわとした、それだけでも何やら色っぽく悩ましい衣装』を纏わせてみました(その布地オーガンジーでは)。
黄色いタレやお好み焼きソースをつけて食べて頂きます。

まわりの黄色いタレは、スパイス類を加えた黄身の醤油漬けをタレ状に練ったもの。スパイスや調味料の配合をあれこれしています。