『九州の武雄温泉で迎えた明治三十年の正月と南欧のナポリで遭った明治四十三年の正月とこの二つの旅中の正月の記憶がどういう訳か私の頭の中で不思議な聯想の糸につながれて仕舞い込まれている。一方を思い出すと必ず他方がくっついて一緒に出て来るのである。』
 寺田寅彦『二つの正月』より


武雄温泉で迎えた正月と、ナポリで迎えた正月。何の繋がりも無い二つの正月の記憶が結び付いているのは何故なのか。そんな随筆です。お正月で思い出す作品の一つ。

日本の中で異国にふれる温泉の正月、ナポリで出会った日本人。異邦の香りというのか、そんなところが繋がっているような気がしたのですが、どうでしょうね。
それはともかく、

『(前略)その華やかな衣裳を脱いで、イヴ以来の装いのままで順次に同じ浴槽の中に入り込んで来た。霊山の雲霧のごとく立昇る湯気の中に、玲瓏玉を溶かせるごとき霊泉の中に紅白の蓮華が一時に咲き満ちたような感じがしたのであった。これは官能的よりむしろエセリアルであった。』

ここの文章がとても好きなのです。
艶やかで華やかで、天女の集いを垣間見るようです。
※エセリアル(ethereal)は、この場合「霊妙な、天上の」を表すものだと解釈しております
名詞はether(エーテル)、形容詞になるとethereal


この随筆をひと皿にするなら唐辛子の粉を真赤になるほど振りかけたうどんと、トマトのかかった赤いスパゲッティでなければと思い、双方ハーフサイズで作ってみました。新年早々激辛チャレンジ。

うどんは定番のきつねうどんにしました。おあげは甘辛く煮付けてあります。そしてどっさり唐辛子。いっそ本当に表面唐辛子で覆ってしまおうか悩んだのですが、うどんであることが分からなくなりそうだったので加減してあります。

スパゲッティについてはトマトがかかっているということなので、プッタネスカ(娼婦風パスタ)にしました。ナポリでトマトソースというと幾つか思い浮かぶのですが、もし記憶の中で味覚と視覚や嗅覚が結び付くことがあるとしたら、繋がりそうなのは唐辛子の辛味かなぁと。それに官能的な体験がパスタの名前と結び付いていたりしないかな、と考えてみたりしました。

きつねうどんもプッタネスカも基本的なレシピで作っています。おあげがふっくら出来て満足。プッタネスカに入れたアンチョビはソースと同化してしまわれた。切るとき細かくし過ぎたかな。

なお、本来うどんで使う唐辛子は調味料というより薬味なので、ここまで掛けません。念のため。