『春日

 春の畑に 老婆がひとり
 土は俄雨と太陽の熱とで気持よい暖かさを抱いてゐる。
 老婆は軟い畑に畝をつくり
 黒土の穴に
 真白い豆を一つ一つ並べてゐる。
 その豆の間違いなく萌え出るのを知るもののやうに
 ていねいに
 いつくしみつゝ土をかける。
 この老いたる女と白き豆とに約束あり
 夢みる太陽の廻転するいま
 老いたる女と白き豆とに約束あり。』


『雪夜

 あゝ 雪のあらしだ。
 家々はその中に盲目になり 身を伏せて
 埋もれてゐる。
 この恐ろしい夜でも
 そつと窓の雪を叩いて外を覗いてごらん。
 あの吹雪が
 木々に唸つて 狂つて
 一しきり去つた後を
 気づかれない様に覗いてごらん。
 雪明かりだよ。
 案外に明るくて
 もう道なんか無くなつているが
 しづかな青い雪明かりだよ。』


『雪の朝

 みんなぞろぞろと朝の街に出て来て
 新しい雪の世界にとび出して
 歩いて見るのです。
 雪の降つた街の明るさが
 みんなの心を親しませるのです。
 それで少女は 頬を丸くし
 目を黒くひらいて
 雀のやうに雪をちらして歩くのだね。』


伊藤整『雪明かりの路』より


雪国の四季や恋愛を描いた、素朴で味わい深い詩集です。
恋の詩も良いですが、個人的には雪国に生きる人々の暮らしを描いたものが好きです。柔らかい気持ちになる。

雪の美しさは勿論のこと、雪の恐ろしさも、雪解けを待ちわびる気持ちも、綺麗事無しの雪国が丸ごと詰まっています。



今回作ったのはホワイトチョコレートがけのココアクグロフと、雪の結晶型のチョコレート。
手亡豆とミントを添えて。

青い雪明かりに北海道ということで、先ずはホワイトチョコレートを使うことに決めました。次に、それなら暮らしの香りがするお菓子を中心にしたいと思い、メインをクグロフに決定。冠雪をイメージしてホワイトチョコレートをかけました。雪明かりはジュエリーシュガー。
真ん中に詰まっているのは角切り林檎です。

北海道で白い豆というと手亡豆なのではと想像し、周りに添えてみました。



引用した詩だけ見ると何で洋菓子かと疑問に思われるかもれないなとふと思ったので追記。
この詩集には西洋的な要素も結構出てくるのです。とある詩に登場する恋人の名前がクララだったりしてちょっと驚いたりしました。