『その身態でのひけ目を顔ででも償いたいつもりのお化粧が、だいぶ薬が利きすぎてぱっと開いた濃い脂粉の牡丹の花の様な顔が首から上で戸惑っていた。その上に一遍ぐしゃっと潰された気持は容易にほぐれて来そうにもなかった。』


宇野千代『脂粉の顔』より


宇野千代先生のデビュー作。
カフェの給仕女お澄がとある企業の支配人フバーから月給制で囲われることになります。
それが決まった翌日、フバーから呼び出されたお澄。遅れて指定の停車場に行くと、フバーの他にもう一人、美しい連れが待っていたのでした。その女性と比べて自分にひけ目を感じるお澄の心には、手当金でも償いのつかないむしゃくしゃしたものが残ります。そんな女心の機微を描いたお話。

成る程、お澄目線で見るともやもやしますね。
手当が出ている以上仕事ですから仕方ないですが、まあ、楽な仕事は無いですね。
もう一人の女性が愛嬌たっぷりに描かれているのですが、個人的には彼女が化粧バッグに羽根を切った生きた蝉を入れている時点で駄目でした。どんなに可愛くても倫理的にこれはちょっと。周りの誰も咎めないので時代的なものなのだと思います。これが他愛ない悪戯とされていた時代かぁ……と遠くを見る気持ちに。それを除けば甘え上手でおしゃべり好きで可憐な女性はそりゃあ間違いなく魅力的ですよね。比べられていなくても引け目を感じてしまいそうです。

そんな複雑な女心が繊細な筆致で描かれているのです。
近代文学は男性作家が多いので当時の女性は女神か悪魔かという印象があるのですが、女性作家の作品を読むとやはり女性に人間味を感じますね。



[2020.12.11]追記
作り直してみました。
牡丹リキュールのアイスクリームを挟んだどら焼き、牡丹リキュールのジュレ。どら焼きには粉糖の脂粉をまぶしてあります。添えたベリー類はもう一人の女性の可愛らしくて溌剌としたイメージ。
苺と牡丹リキュール、香りも味も合うと思うのですがやはり主張は苺の方が強いというのがらしいかな、と。

ところで、牡丹って食べられるのですね。初めて知りました。リキュールはとても爽やかな香りです。今度は牡丹が主役の一皿も作ってみたいです。