『初恋
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ』
『松島瑞巌寺に遊び葡萄
栗鼠の木彫を観て
舟路も遠し瑞巌寺
冬逍遙のこゝろなく
古き扉に身をよせて
飛驒の名匠の浮彫の
葡萄のかげにきて見れば
菩提の寺の冬の日に
刀悲しみ鑿愁ふ
ほられて薄き葡萄葉の
影にかくるゝ栗鼠よ
姿ばかりは隠すとも
かくすよしなし鑿の香は
うしほにひゞく磯寺の
かねにこの日の暮るゝとも
夕闇かけてたゝずめば
こひしきやなぞ甚五郎』
(中央部分:左甚五郎『葡萄に栗鼠』より)
秋でこの詩集を思い出すのは、たぶん『初恋』の印象が強いからだと思うのです。
差し出された白い手に薄紅の林檎。少し悪戯っぽい、大人になりたての女性。
初恋というと初々しさを全面に出した作品が多いように思いますが、仄かに香る艶が絶妙だなと感じました。いやらしくない、ほんの差し色。
この本には好きな詩が多いのですが、他には『傘のうち』も特に好きです。
瑞巌寺の詩は、これを読む前に『葡萄に栗鼠』を拝見していたので、時を遡って藤村先生も同じものも見ていらしたのだなと改めて感動。
静かな冬の夕暮れ、彫刻を観て佇む。でも寂しい感じはしない、沁み入るような詩だと感じます。
今回作ったのは林檎のコンポートと林檎のジュレ。葡萄と、チョコレートの『葡萄に栗鼠』を添えました。
林檎そのままより少し大人びた感じを出したいと思い、赤ワインでコンポートにして薄紅に。
下に敷いているのはフュルンクの途中経過。パン粉を炒ってバターと砂糖を混ぜて炒めたもの。アプフェルフュルンクだとこの後に林檎を混ぜますが、今回は上に乗せました。適度にコンポートの水分を吸ってくれます。
真ん中にあるのは『葡萄に栗鼠』をチョコレートで描けるだろうかとがんばってみた結果。難しい。
現物は素晴らしい彫刻ですので、機会がありましたら是非足を運んでみて下さい。宮城県は松島の瑞巌寺、御成門にあります。景色も素晴らしいし牡蠣も美味しい。
こちらはシートに下書きして別のシートを被せ、上からチョコレートでなぞっています。爪楊枝使用。
ところで、おはぎを詰めつつコンポートの水気を切っていると、もしかしたらおはぎにコンポートを刻んで入れても美味しいのではないかと血迷いそうになりますね。
いや、りんご大福があるから普通に美味しいかもしれない。