『揚げ立てのえびフライは、口の中に入れると、しゃおっ、というような音を立てた。かむと、緻密な肉の中で前歯がかすかにきしむような、いい歯ごたえで、この辺りでくるみ味といっているえもいわれないうまさが口の中に広がった。』


三浦哲郎『盆土産』より


お盆休み、東京で働いている父親がえびフライをお土産に帰省する。教科書で知ったお話です。
短いお話なのですが、素朴な中に色んな要素が詰まった素敵なお話です。
えびフライという未知の料理(時代は昭和初期でしょうか)の名前を聞いて戸惑う家族、ささやかな姉弟の言い合い、生活に根差した川釣りの様子、帰省した父、お墓にえびフライについて報告しているらしい祖母。
個人的には、言葉にし過ぎないのに響くものがあるのが良いなと思いました。不意にしゃくりあげてしまう所などです。感情の変化を緻密に描き出すものも良いですが、子供の頃の感情の奔流はこういった描き方もシンプルに心に届くので良いな、と。
このお話の場合は、前段階で然り気無く状況が描写をされているから大事なところがシンプルでも伝わるのではないかなと思いました。



今回作ったのはえびフライと焼いた稚鮎。
雑魚(ざっこ)というと小さな魚のことだと思うのですが、お盆の時期に川で釣れる魚というと鮎辺りなのかなと想像。
下にスライスした玉ねぎを敷いて、夕立に打たれたようにあばたになった川面を表現してみました。