『思へば、当時の写真は悉く筋や意味のない単に写真が動くといふことだけを示した標本的のものばかりであつた。「煙草を喫してゐる人」とか、「笛を吹く人」とか、「駈る馬」とか、「演説をしてゐる人」とか、「黒板に画を描く人」とか──。』
牧野信一『西瓜喰ふ人』より
執筆に煮詰まった作家の滝をBが見守る滑稽小説……のような書き出しに微笑ましく読み進めていると、半分を過ぎた辺りから背筋が薄ら寒くなって行きました。
最後の夢に出て来る西瓜を喰ふ男二人はBと滝の暗喩と思うのですが、何事でも無いようにお話は終わるのです。
深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ(ニーチェ)。哲学的な構成は好きです。ラストの文と題名が繋がっているのも遊び心を感じるなぁと。
ところでこの二人のやり取り、当時は狂気とは受け取られなかったようですね。舞台が現代であれば滝はともかく滝夫人から通報されそうだなぁと無粋なことを考えてしまいました。
[2020.05.31]
西瓜が出回る時期になったので作り直してみました。
くり貫いた西瓜の中からじっとこちらを見ている感じ、伝わりますでしょうか。
周りに散らしてあるのはピクルスとブラックオリーブをみじん切りにして塩胡椒し和えたもの。クリームチーズにも刻みピクルスと胡椒が入っています。西瓜に塩の感覚でトッピングしてみました。スモークサーモンを入れても良かったかもしれない。
なお、この西瓜は種も食べられます。