『恥の多い生涯を送って来ました。』


太宰治『人間失格』より


言わずと知れた太宰先生の代表作の一つ。

『人間、失格。』

この言葉を見ると、人間として合格とはどういうことなのだろうな、と、ふと考えてしまいます。一つ一つ区切られた言葉が静かに重くお話の底に落ちて行く。
言葉が芸術であると感じるお話の一つです。

人との接し方が分からず道化を演じること、それをひた隠しにすること、相手を拒否してしまうことへの恐怖感、等々。
元を手繰れば現代では多少知られた症状の幾つかですが、今ですら理解されにくいのですから、主人公が実在していたら生きづらかっただろうなぁと(諸説ありますが個人的には創作として読んでいます)。

アルコール依存症と薬中毒は確かに駄目ですけどもね。身体と精神をやられますのでね。
とある薬は現代なら犯罪にもなります。


このお話は、
・はしがき
・第一の手記
・第二の手記
・第三の手記
・あとがき
から構成されています。

はしがきで三葉の写真が登場するのですが、それぞれが主人公の子供の頃、青年期、その後を写しており、この人物に何があったのだろうと思わせます。
そして第一の手記書き出し、

『恥の多い生涯を送って来ました。』

見事に沼に足を取られました。

そこからいかにして人間失格の刻印を額に打たれるまでになるか。
面白かったというよりは、圧倒されるお話でした。



このお話からは終始アルコールの匂いを感じるので、お酒を真ん中に据えることは決めていました。
作中に登場するお酒の中で、アブサン(の伝統的な呑み方)が割りとそのまま主人公のイメージなので、お酒はそれに決めました。何を添えるか迷った結果、香草と相性が良いヒラメとそら豆に。

ヒラメはクレイジーソルトで締めてオリーブオイルとガーリックでソテー、そら豆はシンプルに塩茹でです。野菜ソースを添えて。

[アブサンスプーンの上に角砂糖を乗せて、上から水を垂らして水割りにする]
というのが伝統的な呑み方なのだそうです。
水を垂らすと角砂糖が少しずつ溶け、酒が濁って行く。
幻覚などの向精神作用があるということで一時期製造禁止されていたお酒なのですが、症状を引き起こす成分(ツジョン)の含有率を下げることで製造が再開されたそうな。

ところで、噂には聞いていたのですが、本当に薬の味なのですね。角砂糖を入れているので殊更そう感じるのかもしれません。小児科で出されるシロップ薬を想像して戴くと近いと思います。香りも薬。
かなり薄めたつもりだったのですが、もっと薄めて呑んだ方が良いのかも知れません。
炭酸水で割るのも美味しいかもしれない。



そんな訳で、二週に渡る個人的太宰治先生生誕110年祭でございました。