『叢の中からは、しばらく返辞が無かった。しのび泣きかと思われる微かな声が時々洩れるばかりである。ややあって、低い声が答えた。「如何にも自分は隴西の李徴である」と。』


中島敦『山月記』より


『臆病な自尊心と尊大な羞恥心』のために虎に身を変じた李徴。この表現見事ですよね。一見ちぐはぐに見えるのに心理的に的を得ていて思わず唸ってしまいます。硬質な文体がまた李徴の性分と相まって、もののあはれというのか、読後に押し寄せる虚無感に呑まれそうになる。

ところで、自尊心とはそこまで大事なものなのでしょうか。プライドを持って生きている人は素敵だと思います。それと同時に、李徴が矜持の為に妻子を顧みなかったことに靄がかったものを感じてしまうので、私はきっとこのお話をどんなに読み込んでも真に理解することは出来ないのでしょうね。



[2023.02.17]追記
作り直してみました(2回目)。
叢に潜む李徴をイメージして作ったおあげの肉詰め、からし菜ときくらげの炒め物。それにクラウドエッグで月を表現。ソースは竹炭と醤油がベースです。
おあげの肉詰めは江戸時代の人気レシピ「竹虎」を参考に作ってみました。模様はバーベキューの金串を使い、焼きゴテの要領で付けています。