『彼は女の顔の上の花びらをとってやろうとしました。彼の手が女の顔にとどこうとした時に、何か変ったことが起ったように思われました。すると、彼の手の下には降りつもった花びらばかりで、女の姿は搔き消えてただ幾つかの花びらになっていました。そして、その花びらを搔き分けようとした彼の手も彼の身体も延した時にはもはや消えていました。あとに花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりでした。』


坂口安吾『桜の森の満開の下』より


桜の時期に思い出すお話の一つです。
山賊の男と残酷な美女、そして満開の桜の下にある圧倒的な孤独。
幕引きの空虚と美しさはこれ以上を知りません。



今回作ったのは桜焼売と桜あみ漬けの寒天寄せです。
道明寺粉は桜色8:白2くらいの割合で使いました。
寒天寄せの向こうに蒸した道明寺粉を散らしてあるのですが、写真だと見えにくくなってしまいました。消えていくものだからそれもいいか。