夢野久作『瓶詰の地獄』より
潮流検査用と間違われ、××島役場から海洋研究所に届けられた三つの瓶。
その中に入っていた三通の手紙が綴る物語。
このお話の魅力は美しい文章、構成の妙、そしてちりばめられた矛盾にあると思っています。
まず、一つ目の瓶。
漂流しているらしい二人のもとに救助の舟がやって来ます。
しかし、何故か二人は鮫がいる海に身を投げようとしているのです。最後は、
『ああ。さようなら。
お父様 お母様 皆々様』
と締められています。
続いて二つ目の瓶。
漂流している島の様子、二人・太郎とアヤ子に何があったのか、また、太郎の苦悩が記されています。
そして三つ目の瓶。
自分たちは仲良く無事に暮らしている、早く救けに来てくれといった内容です。
この三つ目のみ仮名が全て片仮名で書かれており、文も稚拙です。幼い頃に書いたというのもあると思いますが、それにしては他の二通と差が有り過ぎるように感じました。
それに二人の署名が、太郎は漢字、アヤコは片仮名なところから、これだけアヤコが書いたのかもしれないと想像しました。
一つ目の瓶の手紙には、一番はじめに出した手紙を見て助けに来てくれたのだろうと書かれているので、手紙は書かれたのと逆順に開封されたのだろうなと。具体的に何があったかは書かれていませんが、そこまで思い詰める何かがあったと思われます。
ただ、これを読んだ時に幾つかの矛盾が気になりました。
・鉛筆がなくなりかけていたなら、一つ目の瓶の手紙は何で書いたのか
・いつも何かしら青い木の葉を吊るしていた筈が、崖下に投げ込む時には枯れ葉になっているのは何故か
・アヤ子は夕日を受けていたのに、小舎に戻った時には青空
・一番はじめに出した手紙を見て助けに来てくれたと思ったということは、流した時期が違うということ。なら冒頭で三つの瓶が同時期に見付かっているのは何故か
などなど。
それと、矛盾ではありませんが、作中『妹』という言葉を使っていないのも気になりました。
アヤコはハーフか何かかもしれない、と思ったこともあります。日本では女性につけられることが多い名前でも海外では男性名ということも有り得ますし。
とはいえ、単に『アヤコを妹だと思いたくない』という気持ちの表れだと思った方が自然ですよね。
うーん。
諸々気になる点はあるのですが、何しろ書簡形式、徹頭徹尾誰かの主観なので、数学の問題や推理小説のように軸となる情報がないのです。
矛盾があったとしても、手紙を書いた人物が事実を誤認しているだけかもしれないし、混乱している時に書いたものかもしれないし、わざと矛盾するように書いたかもしれない。
読者には確認しようがないのです。
ただ、久作先生と編集者の方がこれだけの矛盾を意図せずそのままにしておくということは無いと思うのですよ。
それがこの手紙を書いた人物の救いになるかは分かりません。題名の『地獄』はお話の外にある気がしたのです。瓶詰なのは外側の方なのではないかな、と。
今回作ったのは三つの手紙をイメージした瓶詰ソースと、作中に登場するパイナップル、バナナ、椰子の実(の、器)、鳥肉。あと南国感を強調するのにピタヤとお花を添えました。
瓶詰の中身は、
一つ目の瓶・リエット
二つ目の瓶・サルサソース
三つ目の瓶・ヨーグルトソース
です。
ヨーグルトソースはフルーツに、サルサソースはお肉に、リエットはそのままお酒のお供です。