『悠久と水は行く──
微風は爽やかに鬢をなでる。』
『十年語り合っても理解し得ない人と人もあるし、一夕の間に百年の知己となる人と人もある。』
『北に拠った曹操は、すなわち天の時を得たものであり、南の孫権は、地の利を占めているといえよう。将軍はよろしく人の和をもって、それに鼎足の象をとり、もって、天下三分の大気運を興すべきである──』

吉川英治『三国志』より
『三国志演義』を基礎にして、登場人物はより人間味を増し、妖術の類いには物理的な解釈を加えた吉川版三国志。
桃園の誓いの前に悩む劉備のくだりが創作なのは読む前から知っていたのですが、冒頭のお茶の場面が丸々創作だと知って驚いたのは私だけではあるまい。
作中、日本人には文化的に受け入れがたい場面に説明を加えていたりもします。
地の文に素の作者が現れるのは珍しいですが、それだけ読者にも解って欲しかったのかもしれないなと。いや、吉川先生本人が解りたかったのか、どちらだろう。どちらにせよ吉川先生が原典を大好きなのが伝わる部分だと思います。
「三国志は曹操に始まって孔明に終わる二大英傑の成敗争奪の跡を叙したものというもさしつかえない」
と仰るだけあって、孔明が五丈原で亡くなった後をばっさり省略してあります。
日本で書かれた三国志物に五丈原で終る作品が多いのは、吉川三国志の影響なのだとか。
今回作った料理は、
魏:鶏肉のやわらか煮
(鶏肋鶏肋)
呉:茘枝入りの杏仁豆腐
(呉の特産品の一つとして登場する茘枝と、呉の辺りが発祥と聞く杏仁豆腐を合わせてみました)
蜀:桃の花びら入り紹興酒
(桃園の誓いのイメージ)
です。
他にも青梅を仕込んだり温州みかんを用意したりお花を用意したりもしたのですが、お皿の上が騒がしくなってしまうのでメインのみにしました。
青梅、昆布漬けにしてから醤蘿蔔(ジャンローポウ)風にしてみたら結構美味しかったのですが、残念。
八角と花椒のみ飾り付けに使いました。
下の模様は中国茶を粉末にしたものです。
吉川三国志ということで、やはりお茶は入れたかったのと、黄河の流れをイメージして描いてみました。
孔明要素は「天下三分の計」ということで。