『甃のうへ
あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍みどりにうるほひ
廂々に
風鐸のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃のうへ』
『Enfance finie
海の遠くに島が……、雨に椿の花が堕ちた。鳥籠に春が、春が鳥のゐない鳥籠に。
約束はみんな壊れたね。
海には雲が、ね、雲には地球が、映つてゐるね。
空には階段があるね。
今日記憶の旗が落ちて、大きな川のやうに、私は人と訣れよう。床に私の足跡が、足跡に微かな塵が……、ああ哀れな私よ。
僕は、さあ僕よ、僕は遠い旅に出ようね。』
三好達治『測量船』より
色んな詩が載っているのですが、個人的に好きな詩を二つ。
『甃のうへ』は春の日の穏やかな、何処か幻想的な風景が目に浮かぶようで、最後に甃のうへからそんな景色を俯瞰で観るのがまた素敵だなぁと思っております。
解釈が分かれる処だと思うのですが、最後の一文は甃のうへへ想像の羽根を広げているのかな、と。何となくそんな印象です。
『Enfance finie』は訣れを詩った作品なのですが、
・鳥のゐない鳥籠に春が
・空には階段が
の辺りから、卒業の詩なのかな?と思っていたら題名はフランス語で『過ぎ去りし少年時代』という意味なのだそうで。そう遠くない解釈だったのかな、と、ちょっと嬉しくなりました。
『僕は、さあ僕よ、』の一文がとても好きです。己に問い、それでも決然と前を向く。 かく在りたいものです。
今回は甃のうへをイメージして、小さな甍のうへを松風焼でみどりにうるおわせてみました。
下に敷いてあるのは抹茶塩と青海苔です。
そして蒲鉾の桜は、そのままですが、ながれる花びらを。
鳥のゐない鳥籠はゴボウの素焼きとパイ生地で作りました。中には春告げ魚の一つ、メバルのディップソースを入れてあります。なるべくシンプルに、少しのオリーブオイルと塩コショウとみじん切りの玉ねぎ少々で叩きました。手前味噌ですがこれがとても美味しく出来て大満足。新鮮なメバルを譲って下さった魚屋さんに感謝です。
じゃがいもは同じく測量船に収録されている『村』からです。抹茶塩をつけて食べます。