『──つまりはこの重さなんだな。──
その重さこそ常づね尋ねあぐんでいたもので、疑いもなくこの重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さであるとか、思いあがった諧謔心からそんな馬鹿げたことを考えてみたり──なにがさて私は幸福だったのだ』
『見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた』
『変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう』
『そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう』
梶井基次郎『檸檬』より
綺麗だな、というのが檸檬の感想です。
暗い所から明るい場所へ、鬱屈から愉快へ。言葉、色、『私』の気分、それらのコントラストが綺麗だなと感じました。
えたいの知れない不吉な塊を、その鮮烈な香りや鮮やかな色彩で吹き飛ばす檸檬という爆弾。
その有り様が綺麗だなと。
今回作ったのはレモンカスタードクリームを使ったミルフィーユとフルーツサラダです。
積み上げた本、果物屋、そして檸檬。
ミルフィーユの上に紡錘形を乗せたくて作り直してみました。
檸檬ケーキの型で氷を作り、その上にコーティング用の檸檬クリームを走らせてドームにしました。
ドームの中には檸檬の飾り切り。
後ろに散らしてあるのは檸檬皮の千切りです。
パイ生地のキャラメリゼが前回よりうまく出来たので満足。
極力そのままの容で檸檬を使いたくて、サラダのドレッシングは檸檬を搾る事で完成するよう調整しました。搾り過ぎると口の中が爆発します。
それと、黒い素材でドレッシングを作った事と、人参葉を入れたのが地味な拘りです。