『吁、宮さんかうして二人が一処に居るのも今夜ぎりだ。お前が僕の介抱をしてくれるのも今夜ぎり、僕がお前に物を言ふのも今夜ぎりだよ。一月の十七日、宮さん、善く覚えてお置き。来年の今月今夜は、貫一は何処でこの月を見るのだか!
 再来年の今月今夜……十年後の今月今夜……一生を通して僕は今月今夜を忘れん、忘れるものか、死んでも僕は忘れんよ!
 可いか、宮さん、一月の十七日だ。来年の今月今夜になつたならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから、月が……月が……月が……曇つたらば、宮さん、貫一は何処かでお前を恨んで、今夜のやうに泣いてゐると思つてくれ』



『車は馳せ、景は移り、境は転じ、客は改まれど、貫一は易らざる其の悒鬱を抱きて、遣る方無き五時間の独に倦み憊れつゝ、始て西那須野の駅に下車せり』


尾崎紅葉『金色夜叉』『続続金色夜叉』より


言わずと知れた紅葉先生の代表作の一つです。
文体に慣れるまでの数頁が鬼門でしたが、慣れると響きが心地好く、古めかしくはあれど美しく、何とも魅力的に感じられました。

お話の内容は愛憎劇です。
金色夜叉、続編金色夜叉、続続金色夜叉、新続金色夜叉(未完)という流れなのですが、話し合いは大事だなとしみじみしてしまいました。お宮は事前に貫一と話し合っていればここまで拗れなかったでしょうに。とはいえ、そのすれ違いもお話の魅力なのでしょうね。

そして残念ながら、このシリーズの結末は紅葉先生が天上へとお持ちになりました。



[2021.01.14]追記
作り直してみました。
貫一の職である高利貸しに「アイス」とルビが振ってある事から、今回は氷菓子をメインにしようと決めていました。当時は高利貸しを氷菓子とかけてアイスクリームと呼んでいたのだそうですね。
という訳で、今回作ったのは梅の氷菓子、バニラのアイスクリーム、寒天、梅ジュレ、こし餡、柚子皮の月と金箔。
梅林、高利貸し、金、一月十七日の月、無くなる物と残る物。
作りながら失われた結末に思いを馳せていました。資料によるとお宮には何か考えが有り、貫一は義の為にお金を使い切るのだとか。気になる。