ベランダに鎮座ましている一般的な家庭用としては一番大きなサイズのゴミバケツ、中身はもう植えて30年を超えるグレープフルーツ。

元気に大きくなってはいるけれど、いまだ花をつけたことは無い。

それでも、もう30年以上も我が家にある。


元々は今となってはアラフォーの、現在の我が家の大黒柱である長女がまだかわいい保育園児だったころ、一緒に食べたグレープフルーツの中の種がすでに芽が出ていた、のを二人で植えたもの。

3本発芽し、1本は当時の知人に譲り、残った2本のうち元気な方を東急ハンズでテラコッタのお高い植木鉢を買い大切にしていた。

もう1本は予備扱いで手近にあったバケツに植えていた。

ところが次女の出産で入院中に(妊娠中毒症と、帝王切開のため少し長かった)枯らされてしまった⋯⋯。

ちゃんと毎日水をあげることを伝えてあったのでショックではあったが、奇跡的に予備が元気だった。

テラコッタの鉢はもう植え替えられるようなサイズではなかったのであきらめた。

樹、になってしまった植木は見た目よりも重いし、そのテラコッタが独特な曲線のいわゆるおしゃれなデザインだったので無理だった。


それから20余年、予備だったグレープフルーツの樹は毎年アゲハ蝶の標的にされながらも元気で、さすがにもう鉢にしているバケツが小さいのだろう、丈が伸びなくなったけれど毎年春には沢山の葉っぱを増やしている。


ところが、だ。

この柑橘系の樹、と言うのはやたらと虫がくる。

前述のアゲハ蝶しかり、マンション中層階なのにカミキリムシまでくる⋯⋯。

そして、今どきの子供は虫が嫌い。

私が子供の頃はバッタを捕まえて虫かごにいれていたものだけれど、今の子供は触ることもできないらしい。

常日頃、このグレープフルーツの樹のせいでベランダに虫が来る、と考えている長女、


「ねぇ、今度のボーナスから10万円お母さんにあげるからベランダの植木、処分しない?もちろん費用は出すから」


ですと!

長女は確かにボーナスは大きい。

収入の事なのでお行儀の悪い、いやらしい話ではあるのだけれど長女は額面100万単位で貰ってくる。

それでも、日頃真面目に一生懸命働いた結果の報酬だから大切なもののはずなのに、その中から10万も私に渡すほどこのグレープフルーツの樹、邪魔なのか…と、ショックだった。


「どうせもう実なんかならないよ。虫が来るからさぁ」


と言う長女に、


「いや、グレープフルーツって30年以上経ってから実を付けることもあるらしいしさ」


とゴニョゴニョ言い訳をした。


違うんだよ⋯⋯。

実がなるとか、ならないとか、虫が来るとか、そういう事じゃないんだよ⋯⋯。

まだ幼かった頃のあんたと一緒に植えたから、私にとっては大切なんだよ⋯⋯。

あんただって芽が出た時は喜んだじゃん⋯⋯。

この後しばらくは保育園でおやつに柑橘類が出るとその種を大事にティッシュにつつんで持って帰ってきてたじゃん。

この種もちゃんと植えて、芽が出たけれど枯らしてしまったんだっけ、ね。

私にとってはそういう事も含めて大切な大切なグレープフルーツなんだよ⋯⋯。


そういうと、


「想い出は心の中にあればいいの。実質的に虫が来たり迷惑なんだし、もう実なんかならないよ。捨てよう」


だって⋯⋯。


長男にこの話をしたら、


「この件に関しては俺もねーちゃんに賛成だね。片付けなよ」


次女も、


「まぁ、虫が来るからねぇ」


ワタクシ、四面楚歌状態です⋯⋯。


確かに10万は欲しい(苦笑)

でも、それには替えられない物があるんだよ⋯⋯。

なんでわかってくれないかなぁ⋯⋯。