麻黄湯

麻黄湯は近年、世間でも一般的に

名前が知られるようになった処方です。

 

というのも日本では、

もともとあまり使われる頻度の少なかったものが、

ある時からインフルエンザの高熱に効くという

情報が医療関係者に出回っているからでしょう。

 

麻黄湯は、

桂枝、甘草、麻黄、杏仁という4種の生薬からなる、

とても効き目の鋭い漢方薬です。

 

その構成生薬のひとつ、「桂枝」

クスノキ科トンキンニッケイなどを乾燥したもので、

普通、発汗剤として用いられています。

薬用部分は名前からもわかるように

の部分を使用するのが、この場合は

本来の効き目を発揮してくれます。

桂枝は、

 発汗、鎮咳、の働きの他に、

温筋作用と言って、筋肉の活動を活発にさせる働きを持ちます。筋肉機能の沈滞、萎縮、衰退を治すのです。
また、桂枝は芳香健胃剤といわれるくらい

香ばしい香りのする健胃剤でもあります。

 

さて、

麻黄湯は全体的にどんな働きを体内でするかというと、

全身を興奮状態に持って行き、発汗させることで、

一気に全身を整え、感冒などを治していくものです。


具体的にいうと、

普段から、体力があって胃腸が丈夫で、

生汗などは出ないような人が、

体温上昇や頭痛、喘息の症状が出たときに使います。

また、

火照る感じより、ゾクゾクと寒気の方が強い場合に

用いなければなりません。

 

ところが、

いま日本では、高熱が出たということだけで、

麻黄湯が乱用されつつあります。

ちょこちょこと問題は起こっているのですが、

流行性感冒などで多く使われているため、

変な症状が起こっても、

インフルエンザで起きた症状と誤解され、

薬を選び間違えたのだと、気付きもしないのでしょう。

 

高熱が出た場合、漢方では、

表熱証と表寒証とに大きく分けられます。

火照った感じがする熱感と、ゾクゾクする寒気の

どちらを患者自身が強く感じるかが大事なのです。

 

日本では、

多くの医師も薬剤師も、一部の方々を除き、

漢方薬の使い方を習う機会がとても少ないため、

寒熱の区別をほとんどしません。

体温が上昇したから、熱証なのだと

勘違いをしている方がほとんどです。

 

日本の書物でも、

『麻黄湯』は表熱証の方剤だと

間違って書かれているものも多いそうですが、

香港や台湾、中国などでは、

こういった初歩的な間違いをすることはまずない

といっても過言ではないでしょう。

『麻黄湯』の事を表熱証の方剤といっているのは、

日本だけなのです。

 

麻黄湯は

高熱で、体力があり、汗が出ておらず、

寒気がひどく、のどが乾かない人の、

流行性感冒・気管支炎・喘息・麻疹・腸チフス

様々な熱証の初期などにピタリと合わせれば、

ちゃんと発汗がうまくできて、速やかに治っていきます。

 

ところが、

体力が衰弱した人や、汗が漏れ出ている人、

火照った感じが強くて、

のどが渇いている人などには合いません。

流感にかかり、

体温計で高熱だからと言って、

合わない人に飲ませれば、

便秘錯乱、発汗による衰弱となり、

たいへん危険です。

この間違いの発端はというと

奥田謙藏氏の「傷寒論」から

出たものではないかと言われています。

熱証だか寒証だかわからないように書き記してあり、

わかりにくいところが後々の問題を

引き起こしていると考えられています。

 

さらには、

西洋医学的なモノの見方しか知らない

一部の日本人が、生薬の性質などは無視して、

単離精製された薬効成分のみの判断しかできないために、

使い方をろくに吟味せずに、

高い確率で治る人がいるからというあやふやな理由で、

乱用しているのが問題なのです。

 

寒証というのは温熱薬が適応するひとであり、

熱証というのは寒涼薬が適応するひとです。

間違えれば効かないどころか、逆効果です。

 

漢方薬には

人類の長年の観察によって、

規定された使い方があります。

効く法則や理由が存在します。

 

今の日本の医療システムでは、

それらを知ろうともせず、

たかだか100年ほどの歴史しかない勝手なものさしで、

効く人、効かない人を区別せずに、安易に使用してみて、

効いた、効かないの統計をとり、

事故が起こったら、危険なクスリに登録して、

結局、いい薬なのにだれも使わなくなる。

という流れがとても多いのです。

 

台湾では、

患者さん自身が、寒熱の区別ができるそうですから、

処方者が万が一考え違いをして、間違った処方を出しても、

患者さん側が「私は寒証だと思うのですが…」

といって、間違いが防げることもあるそうです。

すごいですね。