中学受験理科の最終コーナーである力学がはじまりました。


力学の基本は、注目している物体にはたらく力(重力、抗力、張力、ばねの力など)を漏れなく書きだすことです。力が全てわかれば、あとはつりあいの条件(+拘束条件)から問題を解くことができます。

簡単な例として、机の上の箱にはたらく力を子供に質問しました。


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「重力」、「机が箱を支える力(抗力)」と、ここまでは正解だったのですが、「空気の重さ」と答えたのはは想定外でした。確かに、空気は軽いから無視してよいというのは誤りであり、第11回で学んだように1cm2あたり約1kgもの力がはたらいています。


しかし、普通、小学校から高校までの力学では空気の重さの影響は考えません。もっともらしい説明は「箱の周りには空気があるので、四方から押されており、空気の影響は第13回で習う水中の浮力と同じになります。ただし、空気は水よりはるかに軽いから、普通の固体であれば、空気による浮力は無視できるほど小さく、その影響を考える必要はありません。」でしょうか。

しかし、この説明をしつつ、四方から押されていると言ったけど、箱の下には机が接していて、空気はないようにみえるなあとか、完全に密着しているわけではないから、空気が隙間にはいっていっているのかもしれないが、この少しの空気で浮力になるのだろうかなど、少々自信がなくなってきました。


実はこの疑問は、理科教育の世界でかつて大論争になった「水の底に置かれた物体に浮力は働くのか」と等価なものです。論争の経緯や正しい解釈は東大寺学園の先生が書かれた「水の底にピタリと着床すれば浮力は無くなるの?」を参照いただくとして、ここでは、つりあいの考えを使って、小学生でもわかるように説明したいと思います。ポイントはアルキメデスの原理を文字通り受け取り、そのメカニズムとして水圧などを考えるところにあります。


1)水中の場合


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   A         B        C


 上図のように水を入れたビーカーを考えます。水は対流などが無い静かな状態にあるとします。Aのように赤破線で囲まれた部分の水に注目すると、この部分にかかる力は重力と赤破線の外から受ける力の2つです。対流は無いと仮定しているので、この部分の水は静止したままですから、この2つの力はつりあっていると考えることができます。すなわち、赤破線の外から受ける力はこの部分の水の重力と同じ大きさで逆向きとなります。この逆向きの力が浮力です。
 Bのように水以外の物体を水中に沈めた場合、その物体に働く力はその物体の重力と上記の浮力の2つです。最初に示した水の場合と物体の場合で浮力が等しくなるというのはミクロに見ると保証されていない気もしますが、そこは原理ということで受け入れましょう。
 Cのような物体の上下での水圧の差(予習シリーズ11回)は浮力の生じる理由を細かく説明するためのものと考えます。


2)水底の場合

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   A         B        C

 

 物体が底にある場合も浮力の考え方は全く同じです。今度はAのような赤破線で囲まれた部分の水に注目します。この部分の水も静止していますから、この部分にかかる重力と赤破線の外から受ける力の2つはつりあっています。すなわち、底の部分の水にも赤破線の外からこの部分の水の重力と同じ大きさで逆向きの力がはたらきます。
 当然、Bのように水以外の物体を水の底に沈めた場合も、その物体にはその物体の重力と上記の浮力の2つがはたらくことになります。
 水中にある場合との違いは浮力の発生するメカニズムが水圧だけでは説明しにくいことです。物体と底の間に全く水がなければ、下から押す水圧ははたらきませんので、ビーカー底面からの抗力の「一部」がその役割を果たします。部分的に水入っていれば、水圧と抗力の「一部」の合計がその役割を果たします。ここで「一部」といっているのは、抗力の全てが浮力に寄与しているわけではないためです。


 アルキメデスの原理は、物体の位置に対する言及はありませんから、上記のように浮力は水の中のどこでも一定と考えたほうがわかりやすいと思います。ただし、水底で浮力を考えた場合、物体にはたらくと計算される抗力が浮力分だけ調整された値になることに注意する必要があります。

 なお、水圧差によるものを浮力として定義して、底面では浮力ははたらかないと考えることも可能です。ただし、、この場合は、物体が底にある場合だけを特別扱いして、物体の上面の水の重さ考慮する必要が生じます。


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