森田side


遠くから微かに聞こえてくる、鳥のさえずり。


ガラス容器のカチャカチャという音と、コンロのつまみを回す音が部屋の中で鳴る。


私の意識は、夢と現の境界線をふわふわと漂っていた。


ベッドのマットレスが少し沈む感覚があり、私のすぐ近くの窓の鍵が開けられ、心地よい朝の風が吹き込んできた。


すぐ近くのテーブルで、カタカタと何かを組み立てる音がする。


毎朝のことだから、目を閉じて聴覚のみで補った世界でも、彼女がどこにいて何をしているのかが分かる。


しばらくすると、いつものようにボコボコと泡の弾ける音が聞こえてきた。


ゆっくりと瞼を上げると、パイプを咥え息を吸い込んでいた彼女と目が合った。


彼女は静かに目を閉じると、息を吐く。


真っ白い煙が、彼女の口からこっちへ広がってきて、彼女を隠してしまう。


彼女が見えなくなってしまったことに少し寂しさを覚えるが、その煙は彼女の匂いを乗せてすぐに薄くなり、消えていった。


「おはよう。」


煙が晴れた向こう側には、柔らかく微笑む彼女が見えた。


「おはよう、、ございます。」


私はまだ寝ぼけている体を起こして彼女の隣に座り、彼女の腰に私の腕をまわした。


「どうしたの?そんなにひっついて。」


「なんか、、、寂しかったので。」


「どうして?」


「分かりません、、。」


彼女が少し笑うと、彼女の吐いた煙の軌道が少しだけ変わる。


「そう。」


落ち着いた声でそう言うと、私の頭をそっと撫で始めた。


「よく眠れた?」


「はい、とっても。由依さんは?」


「ひかるのこと抱きしめて寝たからあったかくて安眠だったよ。」


少し恥ずかしくなって下を向くと、彼女は片手で私の頬を挟み、私の唇にキスを落とした。


彼女は、不意をつかれ少し驚いている私を見て


「今日も可愛い。」


と、囁いた。


口と口をつけるだけの短いキスでは物足りなくなって、目を閉じて私の顔を彼女の顔に近づけた。


彼女に私の意思が伝わり、深いキスを交わした。


苦くて煙たい味の奥に、微かに果物のような香ばしさがある。


私はその香りを求めるように、深く、深く、味わっていく。


2人の唇が離れると、彼女の頬は、ほんの少し赤く染まっていた。


「朝から、元気だね。」


「好きです。」


「知ってるよ。私も好き。」


私の視線は、彼女の目から徐々に下がって、細いパイプに移った。


それに気がついた彼女は、私にそのパイプを近づけて、小さく首を傾げた。


私が小さく頷くと、私の口にパイプが咥えられ、私が息を吸い込めば、煙が肺を満たした。


パイプが外されて、すぐに煙を体の外に出す。


さっきより、ずっと濃い苦味が気管支に広がる。


でも、あの香りも、何倍にも濃くなって私を浸した。


また、彼女の顔が近づいてきて、目を瞑る。


唇には、柔らかい感触。





部屋には、シーシャの煙と匂いが充満する。


やがて煙たくなった部屋の空気が、窓からスルスルと抜け、朝の風に乗って流れていった。





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「会わない間に」が中々捗らず、ごめんなさい。



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