歪み4


森田side


私の隣の席には私の大好きな人が座っている。


バスがテレビ局を出発してから、初めの10分ぐらいは由依さんが話題を作ってくれていたが、緊張してほとんど喋ることが出来なかった。


5分程沈黙が続いた。


そして今、私はその沈黙に耐えられず、寝たフリをしている。


あぁ、もう最悪。しっかりしろ森田!好きな人に愛想悪いと思われたくないだろ!


そんな事を今更心配したって、起きるタイミングを完全に逃した。


もう家までこのままでいいや。


でも、映画の約束を覚えていてくれた事が嬉しかった。


あの時はまだ、恋とかそんな感情ではなかったけど、過去の自分にも感謝している。


すると突然、頭に手の感触を感じた。


その手は優しく私の頭を撫でている。


もしかして、、由依さん?


目を開けて確認したくて堪らないが、そんな事をしたら嘘寝がバレて気まずくなってしまう。


顔が赤くなっていないか、身体に力が入っているのがバレてしまわないか、と心配になる。


少しずつ、私の頭を撫でるペースがゆっくりになり、頭から手が離れる。


安堵する自分の中に、残念に思う自分がいた。


すると、由依さんのいない方の肩を掴まれ、由依さんの方に倒される。


私の頭は由依さんの肩に寄りかかる形になった。


落ち着け、森田!落ち着くんだ森田!何も考えるな!


人間という生き物はリアクションを完全に堪えなければならない状況な時ほど、顔に出てしまいそうになるのだ。


その時、バスが停まったのが分かった。


ガタガタと他の子達が降りていく音が聞こえた。


由依さんに肩をトントンと叩かれる。


「ひかる、着いたよ。」


「ん、、、あ!ごめんなさい!寄りかかっちゃって、重かったですよね。」


あたかも今まで眠っていたかのような演技をする。


私演技できてる?


「ううん、全然大丈夫。重くなかったよ」


由依さんが倒してきたのに、知らん顔をされた。







ひかる宅


「お邪魔しまーす」


部屋を片付けておいて正解だった。


「あんまり広くないですけど、すみません」


「私だってこんなもんよ。」


「そうなんですか、あ、どうぞ座ってください。」


「ありがとう」


さっきの反省を活かし、自分から積極的に話す。


「由依さん、何飲みますか?って言っても、コーヒーと紅茶と緑茶しかないんですけど」


「あー、じゃあ紅茶で!」


「分かりました!すみません、何もなくて」


「全然いいよ、こっちこそごめんね、急に押しかけちゃって」


「いえ、嬉しいです!」


「ごめん、ちょっとトイレ借りてもいい?」


「はい、そっちの、、、」


「あ。ここか、借りるね!」


「はい。」


やれば出来るじゃないか!森田!


お湯が湧き、いつも使っているマグカップを戸棚から出す。


しかし、戸棚を閉めたところでもう一度ガラス戸を開け、奥の方に逆さに伏せて置いてある青いティーカップと受け皿をふたつずつ取り出す。


実家から送られてきた、ものが良いカップ。


絶対使わないと思っていたけど、売ったりしなくて良かった。


軽く洗ってからお湯を注ぎ、ティーパックを入れる。


由依さんが御手洗から戻って来る頃には、丁度いい濃さになっていた。


2人でソファに腰を下ろし、テレビをつける。


「何観ましょうか」


「じゃあ、ひかるの好きなやつ。」


先輩なのに、後輩にもさりげなく気を遣う所も好き。


「え、それは申し訳ないです。由依さんが好きなやつ観たいです」


「いいよいいよ、ひかる決めなよ」


「いやいや、由依さんが選んでください」


ダチョウ倶楽部になってしまって中々決まらないのでジャンケンで決めることにした。

由依さんが勝ったからほっとした。


「ん〜、じゃあ、あ、これがいい!IT!」


ホラー来たか。頑張ろう。


開始早々、なかなかショッキングなグロシーンが流れる。


顔を手で覆って、指と指の隙間からテレビを覗く。


由依さんはそんな私を両手で優しく包み込む。


そういう所も好き。


顔を覆っておいて良かった。きっと私の顔はタコみたいに真っ赤になっているだろうから。


画面の向こうのピエロと格闘しながら、好きな人にもキュンキュンして、色々と情報処理が追いついて来なかった。


「ヤバいってそっち行ったら!」


意外にも、観ながら喋る系なんだ。


由依さんのおかげで少しずつ慣れてきて、私は映画を楽しみはじめた。


「うわぁ、これ来ますよ、絶対来ますよ」


「来る来る、、、」


「ぎゃぁぁあ」


「ひかるの声の方がこわいわ!笑」


「由依さんだってさっき叫んでたじゃないですかー!」


ホラー映画なのに、2人でお腹を抱えて笑った。


喉がカラカラで紅茶を飲もうとして、持ち上げたティーカップを見つめる。


好きな人に出すお茶だから、少し凝ってみた。 






何やってんだろう。私。


私には告白する勇気なんてこれっぽっちもないのに。


別れたかどうかさえもまだ分からない。


自分の情けなさと、叶わない恋の悲しさで、一筋の涙が頬を伝った。


「、、、ひかる?」


「、、、」


「どうしたの?悩み事?」


泣いてしまった以上、なんでもないなんて言えない。


私は泣き顔を見られないように、由依さんに抱きついた。


由依さんは黙って私の背中をさすってくれた。


5分ぐらいたっただろうか。


私の呼吸が落ち着いたのを見て、由依さんは自分の体からそっと私を離した。


「なんかあったの?」


「、、、」


別れたかどうかを聞こうとしたけれど、由依さんの目を見たら、今の関係が崩れるのが怖くて、何も言えなくなった。


由依さんと見つめあったままの時間が過ぎて行く。


テレビは大迫力の映像とサウンドを私たちに届けているが、私の目と耳には届かなくなった。


どのぐらい見つめあったかは分からない。


もう引き返すことができない状況まで来てしまった。


でも、私の喉は塞がって、言葉を発さない。


また、涙が出そうになる。


また泣くなんて情けない。覚悟を決めて、口を僅かに開いた時だった。







私の口は塞がれた。








由依さんの唇によって。








僅かに空いた私の口に、由依さんの舌が入ってきた。


「んぅ、、ん」


そのまま、私はソファに押し倒された。






保乃言う通りだった。


言葉にしなくても、想いが伝わることってあるんだね。





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日向坂の宮田愛萌さんが休業されますね。

ゆっくり治療に専念して欲しいです。