AlphaGoは2016年、DeepMindによって開発された画期的な囲碁AIシステムです。この革新的なAIが、当時の世界最強プロ棋士であった韓国の李世乭(イ・セドル)九段に勝利したことで、世界中に大きな衝撃を与えました。

【AlphaGoの誕生】
囲碁は遊戯の中でも最も複雑で難解なゲームの一つと言われ、長らくAIには解けないと考えられてきました。その理由は、盤上に石を置く場所が驚くほど多く、将来的な展開を予測するのが非常に困難だったためです。

しかしDeepMindは、深層学習のアルゴリズムと、多くの計算リソースを組み合わせることで、この難題に取り組みました。彼らは、過去の対局データから学習するだけでなく、自己対局によるリンフォースメント学習を取り入れることで、徐々にAlphaGoの棋力を高めていきました。

【AlphaGoの仕組み】
AlphaGoは、「PolicyNetwork」と「ValueNetwork」という2つのニューラルネットワークを組み合わせた、独自の手法を採用しています。

- PolicyNetwork: 盤面の状況から、次に打つべき手を確率的に予測します。
- ValueNetwork: 現在の局面を評価し、勝敗を判断します。

さらに、モンテカルロ木探索を取り入れることで、限られた探索範囲でも効率的に次の一手を選択できるよう工夫されています。多くの計算リソースと適切なアルゴリズムの組み合わせが、AlphaGoの強さの秘密なのです。

【人間対AlphaGoの対局】
2016年3月、韓国の囲碁チャンネルで、AlphaGoと李世乭九段の人間対AIの公開対局が行われました。対局は5番勝負で争われ、結果はAlphaGoが4勝1敗で勝利を収めました。

この対局では、第2局で指された「手腕」の一手が特に有名です。この一手は人間には考えつかない大胆な手で、解説者を含む専門家をすべて驚かせました。彼らは「こんな手があるのか」「これが機械の読みなのか」と戸惑いを隠せませんでした。

一方で、敗れた李世乭九段は「機械の頭脳は私より優れていると思う」と謙虚にAlphaGoを評価しました。これにより、AIが人間のプロ棋士に勝つことが証明され、囲碁の歴史に一画を開いたのです。

【AlphaGoの発展】
AlphaGoの快勝を受け、DeepMindはさらに強化を重ねました。2017年には学習に人間の教師データを使わない「AlphaGo Zero」が登場し、従来のAlphaGoを大きく上回る棋力を発揮しました。続いて「AlphaGo Master」も開発され、これまでのAlphaGoシリーズの頂点に立ちました。

AlphaGoの成功を契機に、他の企業や団体からも強力な囲碁AIが次々と生み出されるようになりました。現在、最強のAIは韓国企業が開発した「Zen Baduki」だと言われています。AI囲碁の発展が止まることはありません。

AlphaGoは、AI技術の急速な進化を物語る歴史的な事例となりました。一方で、人間の感性を持った一手を指すことはまだできません。今後、AIとの対話から人間がさらに深い囲碁を極められるかもしれません。AIとの新たな関係性が生まれつつあるのです。