ある冬の晩のことでした。
空手のお稽古から帰ってきた弟が
玄関先ではしゃぐ声がします。
なにごとぞ?
とやじ馬気分丸出しで玄関まで行くと、
空手着姿の弟の腕の中には
ムクムクとしたつぶらな瞳の子犬がいました。
「追いかけて来たんだね!!」
興奮状態の弟は目をキラキラさせながら
母親に一生懸命話しかけています。
「ねぇ、飼ってもいいでしょう?」
我が家の隣には小さな川が流れています。
田舎のわりに、お世辞にもキレイとは言えない川です。
その川を挟んで向かいには市民運動場が広がっています。
テニスコート、野球場、プール、体育館、道場…。
一応一通りの施設が揃っています。
そこの道場で弟は空手を習っていました。
市民運動場は川を挟んですぐそこにあるのですが、
橋が近くになかったために
我が家からはぐるっと遠回りをする必要がありました。
母は弟のお稽古が終わる時間に、
車でお迎えに行きます。
5分程度のドライブです。
その日お迎えに行くと、
道場の脇で空手着姿の子供たちがはしゃいでいたそうです。
子供たちの視線の先には捨てられた一匹の子犬。
もちろん弟もその輪の中におり、
その子犬を連れて帰りたいと駄々をこねたようですが、
前にも書いたように我が家は共働きで
自宅にいる時間が少ないため、
うちで犬を飼ったらかえってかわいそうなんだよ、
となだめられ、
しぶしぶ納得し、
子犬はその場に置いて帰ってきたんだそうです。
でも、今目の前で弟に抱きかかえられているのは
道場に捨てられていたその子犬。
まだヨチヨチ歩きのこの子が
どうやって我が家までやってきたのか・・・
もうこれは運命だったのです、きっと、絶対。
その子犬はまんまるの瞳がとても愛らしく、
ピンと立った耳がチャームポイント。
とにかくかわいくって
一目惚れした私は弟と一緒に
「飼っていいでしょ?」
と母に聞きました。
母は困った顔をしてこう言いました。
「犬を飼うって大変なことだよ。
毎日ご飯も食べるし、
お散歩だってしなくちゃいけないよ。
ちゃんとお世話できるの?」
それを聞かれて 薄情な私は、
「そうだよね…。
なら、やっぱり要らない。」
と答えていました。
弟は と言うと、
「うん。やるよ。ちゃんとやります!」
と真剣な眼差しで答えていました。
そんな弟の姿を見て、
犬好きな父が
「よし、それなら散歩はお父さんも手伝うよ。」、
その後に 母が、
「じゃぁご飯はお母さんがあげるよ。」
と言ったのです。
家族の絆を感じる素晴らしい瞬間でありました。
そして、その素晴らしい瞬間に居合わせながらも、
そこに私の存在はあってないようなものでした。
こうして、かわいい子犬は我が家の一員になりました。
名前は『くるた』
お世話をする自信のない私が付けた
最高にかわいい名前です。