15年の逃亡生活の末時効寸前で逮捕された殺人犯・福田和子(松山ホステス殺人事件)をモデルにしたという逃亡劇。日本各地を逃げ回るノーハウであり、逃亡のマニュアル本みたいだ。


いつもの折原一の雰囲気を感じるのは所々にブロック体で挿入される「幕間」。登場する人物が誰なのかは分からない。智恵子の逃亡とどう関わってくるのか。ラストではこれらの意味することが解明されるのだろう。そんな期待を持って読み進めるのだが。。
 

折原一と言えば叙述ミステリー。随所に読者をだます仕掛けを施しているはずだが、本作品ではラストが折原らしさが出るものの、終盤までは普通の逃走劇だった。
 

警察と、警察より怖い夫からの追撃をかわし、日本全国を逃げ回る智恵子に読者は感情移入する。ニアミスもあり、智恵子の機転と幸運にも助けられ、スリリングに逃亡する様はこれだけでも十分に面白い。そういえば、昔テレビ番組に「逃亡者」というのがあった。執拗な刑事を追いかけられ逃げる主人公。状況はあれと似ている。
 

逃走の先々で協力者が現れ、菓子屋のだんなには求婚もされる。顔を整形し、ホステスやスナック従業員として生活しながらも、テレビの公開捜査にはびくびくする。公開捜査の情報により警察からの追っ手を間一髪でかわす。まさに福田和子の逃走劇そのものである。作中でもそのことに触れる。
 

378ページで読者はあれ?と思う。「ある理由で東京から車で行くことが可能になり~」とある。「ある理由で」とあるが、その理由は明記されない。その訳はラストに判明する。作者が「ある理由で」と書くのはフェアではない。ラストのどんでん返しに関わってくるから書けないのであるが、読者はここから違和感を持つ。
 

さらに、「智恵子は自分の運転免許証はどこにあるのか考えた。そう、警察なのだ」。つまり、智恵子は無免許運転をしているというのか。しかし、この後、運転免許証についての記述はさらに続くが、彼女が運転しているのか、”誰か別の人物が運転しているのか”についての記述はない。これもおかしい。当然ラストの叙述トリック(作者が読者をだます)に関わってくるわけだ。
 

ラストのサプライズを知りもう一度この辺りを読み返すと、作者の苦肉の策が分かってしまい少々興ざめの部分もある。
 

それにしてもあのラスト。何度読んでも理解できない所があったが、私の読解力不足なのだろうか。流れに破綻があるようでもあり、すっきりしない。