「キャプテン・フィリップス」(2013年アメリカ)

監督:ポール・グリーングラス
 キャスト: トム・ハンクス バーカッド・アブディ

バーカッド・アブディラマン ファイサル・アメッド

マハト・M・アリ

 

久しぶりにトム・ハンクスを見た。「キャスト・アウェイ」、「ターミナル」、「ダ・ヴィンチ・コード」など、どれも面白かった。期待に沿う映画に出演し、アカデミー主演男優賞も何度か受賞している、好きな俳優の一人である。


そのトム・ハンクスがキャプテンを務める貨物船が、ソマリア沖で4人の海賊に乗っ取られた。海賊たちは元漁師。外国の船団が大量に魚(主にマグロ)を捕獲し、自分たちの食い扶持が減った。やむなくボスに雇われ海賊になった。小さな漁船にハイパワー船外機2基を付けて巨大コンテナ船を追う。映画が始まってものの10分、それからはもうハイテンションの映像にくぎ付けになる。


海賊たちが貨物船に乗船するシーン。圧倒的迫力である。コンテナ船の乗組員は船長の他に20人。みんなで立ち向かったら何とかなるのに。銃社会のアメリカで、危険な水域を通る貨物船の乗組員が銃ぐらい持ってないのかと、ツッコミを入れたくなる。巨大なアメリカ対ソマリア人4人の海賊たち。海賊たちはビジネスと割り切り、マネーが手に入ればいいのだ。


乗船シーンから船内での緊迫した攻防へと移る。海賊たちは十分に訓練を積んだプロでないから破綻も起きる。しかしキレたら皆殺しに会うかも知れない。キャプテンは乗組員20人の命を優先する。人質となり4人の海賊と一緒に救命ボートでソマリアに向かう。今度は狭い救命ボート内でのスリリングな展開だ。当時57歳のトム・ハンクスが海に飛び込み、救命ボートの下にもぐったり、離れたり。役者とは言え、つらい演技が続く。


ストックホルム症候群らしき情愛も生まれる。海賊の中にはまだ16~7才の若者もいたのだ。海賊たちはみんな細い体だ。ソマリアでは食料も満足に得てないのだろう。目だけがギラギラして、銃を構える。本当はこの人たち、悪人ではないのだ。体制が悪い、なんて思うが、そんな殊勝なことを思っていられない。


4人は20人の乗組員は制圧できたが、次の”敵”は巨大アメリカ。たった4人の海賊と1人の人質に対して、アメリカは、空母、特殊海兵隊シールズ、駆逐艦も複数隻送り出す。パラシュート部隊、潜水部隊、狙撃兵、ヘリコプターなど、大げさ過ぎるが、これが巨大アメリカなのだ。アメリカ万歳!


人質になった後、船長はもはや英雄ではない。キャプテンの機転やアクロバティックな活躍で4人の海賊に立ち向かう、決してそんな展開にはならない。キャプテンは死も覚悟して家族に手紙を書き始める。


事実に基づいた映画だという。船長はスーパーマンではなかった。普通の人間だった。ラストにトム・ハンクスの渾身の演技に涙が出る。これぞ、映画。素晴らしい映画だ。ハリウッド映画の神髄である。


トム・ハンクスの演技も素晴らしかったが、あの4人の海賊のド迫力の演技につい感情移入してしまった。ソマリア連邦共和国に平和を、と願わずにはいられらない。ちなみにソマリア連邦共和国はアフリカ東部にある。