1985年8月12日、日航機ジャンボジェット機が群馬県御巣鷹山に墜落した。「クライマーズ・ハイ」はその日航機事故の報道に関わった男たちの物語である。


 ”クライマーズ・ハイ”とは「登山者の興奮状態が極限に達し恐怖感がマヒしてしまうこと」。


すごい小説だ。この臨場感、サスペンス、盛り上がり方、タイムリミット、そして推理小説のようなラストのまとめ方。誰もが泣く、泣ける小説だ。重い命、軽い命、家族、友人、ジャーナリズム、使命感、など。たまらないね。


それにしても、異常時の新聞社という組織がすさまじい。怒号が飛び交い、取っ組み合い、醜い喧騒に明け暮れる。騙し騙され、陥れ、縄張り、派閥争い。毎日が命がけのサバイバルゲームだ。時間との戦いでもあり、何度か登場するタイムリミット劇に本を置く間もなく、ページを繰り続ける。
 

さらにこの小説はミステリー的味付けも施される。ジャンボ機墜落の当日、友人の安西と一緒に衝立岩登攀のために現地に向かう予定だった。しかし安西は謎の行動を取った後、倒れ、植物人間となってしまう。果たして彼の行動にはどんな秘密が隠されているのか。
 

家族を意識させられる小説でもある。悠木と決して言葉を交わそうとしない長男・淳。85年8月12日から激動の1週間をメインに、17年後、安西燐太郎と衝立岩登攀を目指す悠木のパートがほどよく加味される。すべてがつながり、まあハッピーエンドに近いラスト。落涙(ラクルイ)という言葉があるが、本当に本にぼたぼた涙が落ちてきそうだった。

 

 

 

勤続31 、49歳の真面目な現職警部・梶が妻を扼殺した。梶は5年前一人息子を急性骨髄性白血病で亡くし、妻もまた若くしてアルツハイマー病に犯された。物忘れがひどくなり息子の命日まで忘れてしまった妻を、せめて母親のままで死なせてくれと懇願され、不憫に思い殺してしまった。2日後自首して来た梶警部を「落としの志木」と異名をとる捜査一課の刑事・志木が取り調べる。


問題は、事件の後、自首してくるまでの2日間の彼の行動だ。なぜ彼は自殺せず新宿歌舞伎町に行っていたのか。空白の2日間、これを解明しない限り、完全な自白、すなわち「完落ち」とは言えない。つまり「半落ち」のままだ。


物語は取調官・志木の章、検事・佐瀬の章、新聞記者・中尾の章、弁護士・植村の章、裁判官・藤林の章、そして最終章が刑務官・古賀の章からなる。それぞれの人間の立場で空白の2日間を解明しようとする。2日間の謎の行動。ただそれだけを焦点にラストまで読者を引っぱり続ける。最終章・古賀の章になっても謎はなかなか解明されない。じれったい。いったい感動のラストとは?
 

ついにすべてが解明されるのはラストの3ページあたりから。51歳を超えたら生きる意義もなくなるという梶、その意味もやっとわかる。そして評判どおり、気持ちが熱くなり涙が落ちそうになる。ぽたぽたと落ちる涙ではない。落ちそうで落ちない涙。だから題名が「半落ち」、なんちゃって。