叙述トリックとは、作者が読者に対してミスリードを仕掛けるトリックのこと。読者の先入観や思い込みを利用し、一部の描写をわざと伏せたり曖昧にぼかしたりする。男だと思っていたが実は女だったなど。作者は会話で判断できないようにしかける。当然服装の記述もあいまいだ。だからフェアじゃないと批判されたりするが、だまされる快感も捨てたもんじゃない。

 

「最後の証人」に叙述トリックが使われている。叙述トリック云々もネタバレで本当は書いちゃいけない。

だまされないよう、こころして読もう。なにしろ、プロローグがそもそも叙述トリック。誰が誰を殺したのか。何度も読み返してみた。

 

「被告人」、「被害者」の呼称も叙述トリック。個人名が特定されないように氏名は出さない。だから後半のどんでん返しにまさかと思う。何度も前のページに戻って読み返すが分からない。理解できるのは、つまり辻褄が分かるのは、さらに読み進めてからだった。

 

200ページを過ぎたあたりで小説の世界観がひっくり返る。柚月裕子の罠にハマってしまう。ニクイ作家だね。「臨床真理」に続く2作品目だと思うが、法曹界のことをよく理解している。かなり研究していると思った。

 

内容は息子を殺された復讐。弁護士佐方が引き受けた容疑者の無実を晴らすことは復讐とは真逆のこと。しかし、佐方は無実を勝ち取る。つまり、息子を殺した人間の無罪を勝ち取る。これでは読者はたまらない。こんなラストは全く期待しない。息子を殺された親に光あれと思う。

 

本当のラストはご安心なされ。100%満足ではないが、佐方弁護士により無罪を勝ち取った憎き殺人犯は、「最後の証人」の証言により、悪が暴かれる。かなりドラマティックな結末が待っている。前半、叙述トリックに悩まされるが、後半の展開に、この作者はすごい、と思ってしまう。

 

それほど長くはないが、単行本300ページをほぼ1日で読み終えた。すなおに、あ~面白かったと思えるミステリー。お薦めですよ。