六月。 

 

週末の通塾にもすっかり慣れ、

息子の生活リズムに新たな「受験生としての型」が整い始めた頃だった。

 

父は、ここで初めて息子を外の世界へと連れ出すことにした。

 

選んだのは「駿台中学生テスト」。

難関校を目指す層、

そしてあの某大手進学塾の精鋭たちもこぞって受験する、

全国規模の最高峰の模試だ。

 

塾内のテストは受けている。

だが、それだけでは「塾という狭い檻の中での立ち位置」しか見えてこない。

ましてや息子はまだ下位コースからのスタートだ。

 

本当の敵はどこに、どれだけの密度で存在しているのか。

それを知るには、外の荒波に身を投じる必要があった。

 

もっとも、塾に通い始めてわずか二か月。

いきなり駿台の難問に太刀打ちできるはずがないことは、

父には痛いほど分かっていた。

 

だから父は、あえて息子にこう告げた。

 

「とりあえず受けてみてごらん。

 自分がどれだけできないか、それが分かるはずだから。」

 

今回は会場受験ではなく、自宅受験という形を選んだ。 

いきなり知らない戦場で萎縮させるのではなく、

慣れた環境で、

あえて少しアバウトな緊張感の中で、

今の彼が「純粋な思考力」だけでどれだけ解けるのかを観察したかったのだ。

 

結果は、予想通り厳しかった。 

 

問題の質の高さ、そして深さ。

息子にとっても、

それは今までに経験したことのない分厚い壁として立ちはだかったようだ。

 

だが、データの下部に記された数字が父を驚かせた。

 

適当に書き込んだ第一志望校――W・K系の一角――の判定が、

合格可能性50%という、

思いがけない数字を弾き出していたのだ。

 

父は、それを額面通りには受け取らなかった。

少し出来すぎだ、と直感した。 

 

「これは自宅受験という甘い環境が生んだ数字だ。

 会場の殺伐とした空気の中であれば、

 結果はもっと無残なものになっていたはずだ。」

 

父は息子に、

静かに、

しかし明確に現実を突きつけた。

 

「いいか、これは自宅だから出た数字だよ。

 会場だったら、判定はもっとずっと低かったはずだ。」

 

息子は言い訳をすることもなく、ただ黙ってうなずいた。

 

初めての外部模試。 

そこに転がっていたのは、

淡い希望でも、

根拠のない絶望でもなかった。 

ただ、冷徹で、動かしようのない“現実”だった。

 

だが、己の無力を知ることこそが、

本当の意味での戦いの第一歩となる。

 

父の策略は、ここからさらに進んでいく。

 

 

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