時折、雨脚を強めながら
今日は雨の一日。冷たい雨。
愛車のボディを叩く、雨音をBGMに休憩時間を過ごす。仕事の合間の僅かなひと時。
ふと、
雨の日の記憶が、水滴がぽたりと落ちて広がるように、蘇ってきた。
…
小学生だったと思う。
学校からの帰り道。雨の帰り道。
途中にある、小さな公園。ブランコと砂場、鉄棒だけの公園。真ん中に桜の木。木登り遊びの木。
ブランコの下に、大きな水溜まり。
何故かボクは、その水溜まりの水を、泥水を排出排水したくなったんだ。
降りしきる雨の中。
傘もランドセルも投げ出し。
公園の外周にある側溝へ向け、排水路を掘り出したんだ。
雨に濡れ、泥に塗れ。
側から見れば、ただの泥遊び。
でも、ボクは一心不乱に溝を掘った。
ブランコの下の水溜まりを、やっつけたかったんだ。
降りしきる雨の中。
やがて、排水路は完成し、水溜まりから側溝へ、雨水泥水は流れ出す。
流れ出す。
しかし、水溜まりの水は減らない。
ブランコは、公園の中でも低地にあった。
公園に降り注いだ雨は、ブランコ周辺に集まる。
そして、ブランコの下、足元の窪みに溜まる。
小学生の子供が作った排水路程度、たかが知れている。
だが、当時のボクは、そんなこと気にもしていない。
水溜まりの水を排出排水する事に夢中だった。
降りしきる雨の帰り道。
雨に濡れ、泥に塗れ。
…
何がそんなに夢中にさせたのか?
今のオイラには、もう分からない。
ボクにはボクなりの理由が有ったはず。
だけど
今のオイラには、もう分からない。
…
夢中になっていたボクを、呼び戻したのは、母だった。
いつの間にか、ボクの横に佇んでいて
傘をボクに翳し、母は濡れていた。
アンタ何やってんの!
呆れ果てた後、こっぴどく怒られた。
でも、ボクはその時、不思議な満足感に満ち満ちていた。
…
今のオイラには、その満足感すら、なんだったのか忘れてしまった。
今のオイラには、もう分からない。
今のオイラには、もう感じられない。
いや、
今、この雨の下。
この雨の記憶が蘇った事には、きっと意味がある。
きっと、呼び戻せる何かがあるはず。
そんな雨の一日。
冷たい雨の一日。
そして明日は、晴れ予報。