花火大会のふたり ―――見守る、夏の風物詩―――
綺麗だよ、どんな打ち上げ花火より、玲が一番
8月28日(金)
「どうしてそうちゃんジーパンなの?」
「動きやすいから」
浴衣姿の玲は眉を寄せて俺の服装を眺める。特にそこまで非難させるほどでもないと思う。ジーパン、シャツ、スニーカー。
「浴衣着てよぅ」
「七夕のとき着たよ」
「今日も!」
外での浴衣は気が進まない。なぜなら、いざってときに浴衣姿のれいを助けられなくなりそうだからだ。
「文句言うなら俺いかないよ」
もともと人混みなんか苦手だ。俺は平均より割と背が高いから、れいが迷子になっても見つける自信くらいはあるけど、まあ、その前に迷子にならないように手はつなぐけど。取り敢えず人が多いところは嫌い。デートなら、静かに浜辺でも散歩したいけど、れいは食べ物抜きで俺とデートする気なんか、さらさらない。というか、れいにとって俺とこうして出かけることが“デート”であるという認識は、悲しいことに多分、ない。
「いくいく!」
浴衣でいつもより歩くのが遅いれいとはぐれないようにする名目で、自宅から手なんかつないでみる。
「あー、三井!」
げっ!
これだけ混んでてこれだけ人がいるのに、どうして俺を見つけるんだ?
「小橋さん」
「こんばんは、れいちゃん」
「三井って見つけやすいよなー」
「そうなんです。そうちゃん背高いから便利なんです」
“便利”ってなに?“便利”って・・・。
この身長のおかげで、確かに目立つなって言う自覚はある。でも、何も声かけてくれなくてもいい。しかも、面倒なことに小橋は高校時代の部活の連中と一緒だった。
「なんだ、こういうことか」
「?」
納得顔の小橋をれいが見上げて首を傾げる。あ、頼む、余計なこと言わないでくれ。
「いや、今日三井も誘ったんだけど、先約があるからって断られてさ」
俺の心の願いなんかむなしく、小橋がれいに話しかける。高校時代はれいもよく試合の応援とかにきていたから、今日のメンバーはほとんど顔見知りだ。そんな中でこんなこと言ったら、れいのことだからきっと・・・。
「そうだったの?そうちゃん、ごめんね?言ってくれたらよかったのに」
「いや、別に・・・」
「あ、じゃあ、せっかくだからご一緒してもいいですか?」
よくない!全然よくないよ、れい。
そして普通はカップルのデート中に出くわした場合、『じゃあ、俺たちはここで』ってな感じでデートの邪魔をしないように遠慮するものだと思うけど、小橋の場合、そんなことはない。なぜなら、小橋はじめ、今日のメンバー全員が俺とれいが“ただの”幼馴染であると知っているからだ。手を繋いでいようとなんだろうとそんなことは関係ない。
「大歓迎だよ!男だらけで花火大会なんて、つまんねーなって話してたとこだし」
ほらね。
れいが可愛いからみんなすごい盛り上がってる。俺?うん、気分的には地面の底まで落ちた感じ。
「あ、でも、私お邪魔かも」
「そんなわけないない!むしろ邪魔者は三・・・」
“むしろ邪魔者は三井だよ”って言いかけた小橋が俺の顔を見上げて一瞬固まった。
「み・つ・い・・・?」
「ん?なに?」
必要以上に目を見開いた小橋を、俺は最高ににっこり笑って見返した。
「怒ったか?」
「そんなわけないだろ?」
鋭いね、小橋。出会ったばかりの頃は俺のこの笑顔にあっさり騙される純粋無垢なやつだったのに、4年という歳月はこの俺の笑顔が怒ってるんじゃないかってことを疑わせるくらいお前を鋭くしたわけだ。
「じゃあ、いこうか」
でもまだ疑うだけなんだね。
「そうちゃん、いこ」
れいに手を引かれて、俺は仕方なくも懐かしいメンバーと花火を見ることに。
「綺麗・・・」
花火が始まれば、れいは俺の隣にぴったりとくっついて座り、俺の手を握ったまま、花火にくぎ付けだ。首が痛くなるほどに見上げて、玲の大きな瞳に映った花火は、空を舞うそれよりもきれいで、俺はれいの横顔を眺めていた。
「綺麗だね・・・そうちゃん、みてる?」
「うん、綺麗だね。でも、れいのほうが綺麗だよ・・・」
「え?」
悪戯っぽく言ってみたけど、俺の声は花火の音にかき消されて、れいには聞き取れなかったらしい。まあ、今はそれでいいか。今はね。
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「こちらこそ。れいちゃん、たまには試合観にきてよ」
「はい!」
「じゃあ、三井、またな」
「おう」
花火が終わって、やっとれいとふたりきりの帰り道。
「ねえ、そうちゃん」
「ん?」
「さっき、なんて言ったの?」
「さっき?」
「綺麗だねって言ったら、『玲のほうが・・・』って、私のほうが何?」
「れいのほうがにぎやかだよって」
「にぎやかって、うるさいってこと?」
「まあ、そうだね」
「ひっどーい!」
いつか言うよ。そうだな、れいが俺のために、ウエディングドレス着てくれた時にでも。