「た・だ・い・ま・っ」
人使いの荒さは天下一品の母との買い物で、私の年末分の体力はほとんど使い果たしたのだと思う。
「はい、明季」
「助かる!ありがとう」
「なんか手伝う?」
「ううん、亜紗ちゃんちょっと休みなよ」
自分だって実家に帰ってきてから休んでなんかないはずなのに気遣い上手な妹によって、私はようやく一息ついてソファーに座り、可愛い甥の顔を眺めるに至った。
「お疲れさまでした」
下の妹の佳都子が入れてくれたコーヒーでほっと一息。
「ねえ、お父さんどこ行ったの?」
「あ、そう言えばポメちゃんとゴールちゃんのお散歩から帰ってきてないな」
ほとんど最強レベルの母と私たち四姉妹のおかげで家の中で存在を忘れられがちの父は、最近ではもっぱら二匹の愛犬の世話にいそしんでいるらしい。
ちなみに“ゴールちゃん”とは、そのままゴールデンレトリバー。バンクーバーオリンピックの年に母が出勤途中で拾った(すでに成犬だった)おばあちゃん犬だ。しばらく飼い主探しをしたが現れなかったため、我が家で飼うことになった。母が拾った際に『ゴールデン・レトリバーよ』といったのを聞き、犬種がわからない父はそれを名前と思って呼び続け、今日に至っている。通称“ゴールちゃん”。ポメちゃんはこの夏、母が同じく出勤途中に拾ったポメラニアンで、名前の由来はそのまま父が勘違いし、いまに至っている。
「ただいまー」
そんな話のさなか父と愛犬たちが帰宅した。
「おかえり」
愛犬たちの脚を拭くべく足ふきタオル片手に玄関まで出迎える。
「お、亜紗子。おかえり」
「お父さんもおかえり」
年末に会う時はいつも坊主のはずの父の髪型がアフロだったことに多少驚きつつ犬の足を拭く。ゴールちゃんは聞き分けよく足を拭くまで待っているが、やんちゃなポメちゃんは足を拭く間もなくリビングへ駆けて行ってしまい、大掃除を終えたばかりの佳都子の悲鳴が聞こえたが、私はあえて聞かなかったことにした。
「お父さん、今年は髪切ってないんだね」
「年明けに行くよ。今日はちょっと忙しくてなぁ」
アフロに挟まったままの障子紙のかけらが、合計12枚ある家じゅうの障子の張替を一手に引き受けたであろう午前中の忙しさを物語っていた。
ちなみに父は昔はかなりイケメンだったらしい。185cmの長身で、スタイルもそこそこいい。顔だってイケメンの名残はあれど、いかんせん、髪型が間違っている。この両親のもとに生まれてかれこれ28年。私は父が坊主、パンチ、アフロ、以外の髪型になったのを見たことはない。
そんな両親から生まれた私たち四姉妹は自分で言うのもなんだが、当然のごとく容姿端麗で、性格はどこから受け継いだのか、両親のような問題もない。
「なんだ。周平くんは来なかったのか」
「うん、年明けに迎えに来るって。向こうのおばあちゃんを一泊旅行に連れていくんだって」
女だらけの我が家の中で、私たち姉妹の旦那にあたる“義理の息子”の来訪を楽しみにしていたらしい父は四人いるのにその誰一人もきていないことに多少がっかりしているらしかった。
「あ、お父さんお風呂先に入ってよ」
今年も大晦日の夜勤らしい姉の真紗子が出かけてしまった後、父は唯一の味方(?)である孫息子と上機嫌で風呂に向かった。
「お父さんに任せて平気なの?」
「大丈夫だよ。お父さんだって四人も子供育ててきたんだから」
「それもそっか」
年末というのは姉妹全員が結婚した今でも毎年変わらない光景なのだ。それを友人たちに言えば驚かれつつ羨ましがられる今日この頃。
わがままこの上ない自分勝手で破天荒な母と何をどうしてそんな母と結婚したのかわからない父。一見優等生に見えて実はそうでもない姉(真紗子)とマイペースだといわれている私(亜紗子)、思い立ったら即行動であれこれひとりでやってしまう上の妹(明季子)と女だらけの家族の中で孤立しがちな父を気にかける下の妹(佳都子)。
これは、そんな我が家のRootsの物語である。