手錠とは違う金属が、椅子と喉飴の距離を固定している。見慣れた赤色光。嗅ぎ慣れたグリーンティーのお香。大きすぎるテーブルとトースター、その向こうにはちょっとだけ開いた窓。
「ここは、私の部屋だ」
喉飴は、視界のピントが合うのを待った。
「またお会いできましたね」
「あなたはあの時の……」喉飴の視線に、緑色の物体が一緒に目に入った。
「蛙の口枷をどうするか、悩みましたよ」
緑蛙は蛸糸で天井から吊るされ、喉飴の髪留めで口をグルグルに巻かれていた。
「ぐるしいかもしれない、ぐるしいかもしれない」
喉飴は首を垂れて、ミミズ腫れの瘡蓋が残る、自分の太ももに目線を降ろした。
視界のピントが正常になると、喉飴はそれがミミズではなく傷跡なのだと理解できた。
「喉飴さん、あなたに見せたいものが色々あります」、男は黒の皮手袋を外し、それをソファーに投げ捨てた。「まず、これは最初に死んだ極太です」
その写真は、どこかの港で仰向きに倒れている大柄の男だった。報道されていたとおり、その写真から外傷は確認できない。
「こいつは少々口が悪くてですね、思わず殺しちゃいました」
自分がどれほど気を失っていたのか、今が何日の何時何分何秒なのか、喉飴にはわからなかった。
「栄養ドリンクに薬をたくさん入れたんです。ほら、何でしたっけ? 最近、芸能人が逮捕されたじゃないですか」
「それだけの理由で殺したの?」
「それだけ? 立派な動機でしょ」、男はイラついた顔をした。
「はい、次はこれ」
写真には、性行為をしている男女が写っていた。よく見るとそれは、喉飴と精治だった。
「あなた、誰なの?」
「もういいでしょう。四戸玉と申します」
「何で丁寧な口調なの?」、喉飴は挑発的に、それでいて力無く、四戸玉に質問した。
「だまれ、メス豚が。アバズレが」、四戸玉の目が痙攣して、ピクピク揺れている。
緑蛙は、催眠術師が使う糸と五円玉のように、新品の電池に取り替えられたメトロノームのように、左右に規則正しく揺れている。
「失礼、カットなるのは私の悪い癖かもしれませんね」
「あなたの悪いところは、人を拘束することよ」
「今日はよく喋りますね。また恐怖を味わいたいですか?」
「恐怖も結構だけど、その前に見せるものがあるんじゃなくて?」
四戸玉はセックスしている二人の写真を床に投げつけ、次の一枚を喉飴の目の前に差し出した。
「はい、みんな死にましたよ」
「……。これって……亀頭監督と……美鈴さん」
「はいはい、まだまだあります」
「鳥取さん、光田さん、力丸さん、花園さん……」
残虐もいいところだった。ナイフで脳天を刺されたり、アイスピックで心臓を突かれたり、絞殺されたままぶら下がっていたり、見れば見るほど具合が悪くなった。
「はい、次」
里美がNESTのロッカー内で死んでいる、裸で黒焦げになっている。隅に捨てられた衣装はあの日、里美が着ていたパジャマだ。
「はい、まだあります」
精治が白い軽自動車に潰されている。焼く前の肉みたいなグロテスクな形と色をした物体が、口から飛び出ている。
「これが最後です」
高草が白目を見開いてレンズを凝視している。顔がドアップすぎて何が起きたのかわからないが、表情が全てを物語っている。
緑蛙と喉飴が残りましたね。後はみんな死にましたよ。
「どんな気分なの?」、自分を拘束している金属が太い針金なのだと、喉飴はやっと今認めた。
「う~ん、少々やりすぎましたね。それが自分の目的のためとはいえ」
「私はまた生かされるわけ? いっそ同じように殺してくれないかしら?」
喉飴は自分の口からこぼれる台詞に、身震いした。何が自分をそうさせるのかわからなかった。
「ええ、もちろんそのつもりです。私は捕まるわけに行きませんから」、四戸玉はスーツのポケットから白いハンカチを取り出した。
「その前に、喉飴さん。一度お手合わせ願えますか?」
四戸玉は取り出した白いハンカチを、喉飴の呼吸器に当てた。喉飴は意識を失った。四戸玉はベルトを外し全裸になった。続いて喉飴の拘束を外し、衣服を全て剥ぎ取った。そしてミミズ腫れした喉飴の太股に陰茎をこすりつけ、自分が満足するまで勃起させた。
「たまんねえ」
四戸玉は、全く濡れていない喉飴の女陰に、陰茎を挿入した。
意識の無い喉飴の体を人形のように揺する。腰をゆっくり時には素早く振り、数分後、喉飴の膣内に射精した。
「あああ、いい」
四戸玉は再び喉飴を椅子に拘束し、薬缶に入れた水を頭にぶっ掛けた。
「ぶはっ」
「またお会いしましたね」
「げほっ、げほっ。んん、あんたいい加減にしなさいよ」
「喉飴さん、とても気持ちよかったですよ。たくさん出しちゃいました」
「中に出したの?」
「ええ」
「汚らわしい」
ぶら下げられた緑蛙は動かなくなっていた。喉飴にはだんだんそれが、空気で動くゴムガエルの人形に見えてきた。もしかしたら緑蛙もまたすでに死んでしまっただろうか、そう喉飴は不安になった。
「緑蛙、起きて、起きて!」
喉飴の声に反応して、緑蛙の体は黄金色に輝きだした。