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東京・羽田空港で年始に起きた、日本航空の旅客機と海上保安庁の航空機との衝突事故。原因は、離発着をコントロールする空港の管制官と飛行機のパイロットとのやり取りの中で、何らかの人為的ミスがあったと見られている。しかし、多くの人命を預かる管制官の「現場」は、取り扱う航空機の数が新型コロナ後に増加している一方で、人員が削減されているという厳しい状況にあるという。


航空機の飛行状況をリアルタイムで提供するウェブサイト「フライトレーダー24」を見ると、飛行機の形をした黄色いマークがいくつも並んで列をつくり、東京・羽田空港に向かって進んでいく。途絶えることなく数分おきに、離陸と着陸が繰り返されているのだ。


 国土交通省によると、羽田空港の発着数は1日約1300回。ピーク時には1時間に90回にも上り、1分間で1.5機が発着している計算になる。


 英国の航空情報会社OAGが発表した2023年の「世界混雑空港ランキング」によると、羽田空港は米アトランタ、ドバイ国際空港に続く3位にランクイン。世界でも指折りの忙しい空港なのだ。


 この過密な航空機の離発着をコントロールしているのが、羽田空港でひときわ高い管制塔などで働く管制官たちだ。



 羽田空港の管制塔は2009年に新しく作られ、高さは国内で最も高い115.7メートル。空港全体を見渡せるように全面がガラス窓になっている。


「管制官という仕事は、自分の指示が人命を左右することから、ミスは絶対に許されない。常に職場はピリついています。いつも胃がヒリヒリし、予想以上にストレスがかかる現場です」


 羽田空港で航空管制官として働く男性は、そう語る。


 男性は大学卒業と同時に「航空管制官採用試験」を受け、一発で合格。その後、航空保安大学校で8カ月にわたる学科と技能研修を受け、地方の小さな空港に配属された。その後、大きな空港への異動も経験したが、数年前から働き始めた羽田空港について、こう語る。


「羽田はほかの空港と異なって、取り扱う便数が非常に多い。飛行機を詰まらせないように、常に“効率”が求められる」



 羽田空港の管制塔には常に15人ほどがいて、それぞれ担当している滑走路を目視やレーダーで確認しながら業務にあたっている。


 管制業務では、管制官からの指示を機長が聞き間違えたり、誤解したりすることがないように、指示は簡潔な英語でやり取りし、内容を機長が復唱することがルールになっている。


「飛行機が常に飛び交うなか、離着陸させていいのかを数秒で判断する必要があります。しかし、不要な復唱を繰り返すなど、本当にこちらの指示が伝わっているのか不安になるパイロットもいます」


 管制官たちは、そんな問題のある飛行機を「要注意機体」として、確認の優先度を上げる必要がある。そんな機体に気を取られていると、別の場所で飛行機が接近しすぎたりして、ひやりとすることがあるという。


 そんな緊張感がある現場で、年が明けたばかりの1月2日、大きな事故が起きた。






事故後「交信用のマイクを持つの怖い」 世界混雑空港ランキング3位の羽田で働く管制官の本音

1/21(日) 10:32







■管制官は「マイクを持つのが怖い」


 事故の現場は、羽田空港の海側にあるC滑走路。滑走路上にいた海上保安庁の航空機に、着陸した直後の日本航空の旅客機が後ろから突っ込み、海保機の5人が死傷した。


 原因はまだ調査中だが、管制業務の中で空港から半径9キロ、高度900メートルの範囲を飛ぶ飛行機に離着陸の指示を出す「飛行場管制業務」で人的なミスが起きたと見られている。


 国交省の関係者によると、羽田空港では滑走路と誘導路を見守る管制官が、それぞれ1人ずつ配置されている。その補佐役も1人いる。


 さらに、管制業務のシステムには、着陸しようとしている機体がある滑走路に別の機体が進入していると注意喚起する「滑走路占有監視支援機能」がある。この警告は、管制官が取り扱うモニター画面に表示される。


 事故当時もこの装置は正常に作動しており、管制官が警告に気づいていなかったと見られている。国交省は6日から、同装置を常時監視する管制官を配置することを決めた。



 しかし、この警告機能には問題があると、前出の管制官の男性が指摘する。


「正直なところ、警告の誤報が多いため、その機能として役割を果たせていない。そのため、目視に頼り切ってしまうことがほとんどなのです」


 男性は事故後も、羽田空港で仕事を続けている。


「日々の業務で(交信用の)マイクを持つのが怖い。自分の判断が正しいのか、常に疑ってしまう」



■便数は急増しても管制官は減少


 事故の背景には、新型コロナから戻りつつある日本の空の「混雑」もあると考えられている。


 国交省の資料によると、日本国内にある管制塔が扱う飛行機の数は、2004年は約463万機だったが、19年には695万機に上った。コロナ禍の20年、21年に420万機まで減ったものの、22年には551万機まで回復。国交省によれば、23年以降は19年と同じ水準になりそうだという。


 あわせて羽田空港の発着回数も増加傾向にあり、22年度には約41万回に。JR山手線並みの頻度で航空機が離発着している状況だ。背景には、新滑走路が10年を増設し、東京五輪に向けて都心上空を飛ぶ新ルートが20年3月から運用され始めたことがあげられる。


 その一方で、飛行機の運行をさばく管制官は減る傾向にある。


 国家公務員である航空管制官になるには、国土交通省が実施する「航空管制官採用試験」に合格する必要があり、国によって定員が定められている。国交省の資料によると、定員は05年から18年連続で減少。05年には4985人だったが、23年は4134人になった。


 国交省の担当者は、


「管制業務の人員数は大幅な減少ではなく、横ばいを維持しつつも減少傾向にある。もちろん管制官1人あたりの取り扱い機数が増えているのは把握している」


 と認める。



■「人がいれば事故は起きなかったのでは」


「政府による合理化政策で、管制官の人手不足が生まれている。管制官の判断をダブルチェックできるような人員が確保されていれば、今回の事故は起きなかったのではないでしょうか」


 国土交通労働組合(国交労組)の担当者は、こう指摘する。


 合理化政策とは、14年7月に閣議決定された「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針」のことだ。


 各省庁はこの方針に基づき、5年ごとに人員計画を立てる。国交省は20年に内閣人事局から出された通知を受けて、24年度までに6176人の人員削減が目標となっている。


 しかし、「現場」の希望は正反対だ。国交労組の担当者は、


「現在、羽田空港では、1チーム12~13人の管制官がシフト交代制で勤務しています。管制塔内には15人ほどいなければいけなく、足りない2~3人は他のチームから応援という形で成り立っています。我々の計算では、安全体制を強化するためには新たに3人の管制官を6チーム作らなければならず、追加の人員が計18人必要です」


 と訴える。


 国交労組は14年から人員の増加を国交省に求めているものの、


「なんとか現場でがんばってくれ、の一点張り。21年度は6人の増員を要求したものの、結果は3人だけでした」


 と担当者は明かす。


「管制官は常に多忙で、針の穴に糸を通すような世界でもある。なんとか現場がまわっている状況だが、絶対に人員を強化すべきだ」


(AERA dot.編集部・板垣聡旨)


板垣聡旨

















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