ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアによるウクライナ侵攻が長期化するなか、NATO(北大西洋条約機構)加盟国や、日本やオーストラリアなど、40カ国以上の国防相や高官が参加し、ロシアに断固対峙(たいじ)する姿勢を明確にした。
ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、「自由・民主主義勢力」として、平然と「戦争犯罪」を続けるロシア軍の暴走を許さず、「ロシア打倒」「ロシア壊滅」も視野に入れた動きだと分析した。
オースティン米国防長官が25日、アントニー・ブリンケン米国務長官とともに訪れたポーランドで、「ロシアの弱体化」を目指す方針を表明した。
これは、従来の「ウクライナ防衛」から、実質的な「ロシア打倒」に踏み込んだ「戦略の大転換」とみるべきだ。
先週のコラムで、私はジョー・バイデン政権が戦後の世界秩序づくりをにらんで、「プーチン体制の転覆を視野に入れたのではないか」と書いたが、まさに、そうした意図を裏付けるような発言である。
オースティン氏は「われわれは、ロシアがウクライナ侵攻でやったようなことができないようになるまで、彼らを弱体化させたい」と語った。
額面通りに受け止めれば、米国は今回の戦争でウクライナを防衛するだけでなく、「ロシア軍が2度と立ち上がれないくらい、徹底的に壊滅する」という話になる。
これを聞いて、私は太平洋戦争で敗北した日本の軍部が戦後、徹底的に解体された史実を思い出した。
米国はロシアに対して、それと同じような戦いと制裁を考えているのではないか。
言葉だけではない。オースティン氏は26日、ドイツのラムシュタイン米空軍基地で、約40カ国の同盟国、友好国の軍トップを集めて会議を開き、ウクライナ支援を協議した。
ドイツはその場で、「ゲパルト対空戦車」50両の提供を表明した。
「ウクライナ連絡グループ」と名付けられた参加国は今後、月に1度、定期的に会議を開いて支援策を調整する、という。
まさに、ロシアとの本格的な戦いを予感させる展開である。
米国は本気だ。
しかも、長期戦を覚悟している。
ウクライナにヘルメットを提供しただけで、当初は完全に腰が引けていたドイツが今回、率先して戦車提供を申し出たのも、アングロサクソンの決意を察知して、「流れに乗り遅れたら大変だ」と焦った面があるのではないか。
戦後を考えれば、この40カ国が専制主義・独裁勢力に対抗する「自由・民主主義勢力」の中核メンバーになるのは間違いないからだ。
そこで、日本だ。
この会議には日本も招待されていたようだが、果たして存在感を発揮できているのか。
岸田文雄政権はウクライナからの難民受け入れに政府専用機を使うなど、パフォーマンスに余念がない。
だが、米国など31カ国に感謝を表明して発信したウクライナ外務省の公式ツイッターに、日本の名前はなかった。
つまり、大して評価されていないのだ。
これでは、戦後世界で主要な役割を果たすのは難しい。
ロシア壊滅へ米欧40カ国〝戦略大転換〟
ドイツは戦車提供を即決
日本は戦後世界の中核メンバーに乗り遅れるな
「北方領土周辺で日米合同演習を」
日本は防弾チョッキなどを送ったが、その程度しかできないのか。
自衛隊前統合幕僚長の河野克俊氏は「北海道の北方領土周辺で日本が単独で、あるいは日米で合同軍事演習をすれば、ロシアが西に動くのを牽制(けんせい)できる」と語っている。
日本も戦略的なウクライナ支援に動くべきだ。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ)
ジャーナリスト。
1953年、千葉県生まれ。
慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。
政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。
政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。
著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。
ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。