警察への声掛け強化依頼 強制力なしも「配慮が重要」

 


外出自粛要請を受け、通行人に声掛けをする大阪府警の警察官=大阪市中央区(須谷友郁撮影)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、

知事らの依頼を受け、

警察官が各地の繁華街で、

通行人に外出自粛要請を伝える「声掛け」を強化している。


帰宅の促進が期待できる一方、

特別措置法に基づくとはいえ

外出自粛要請に強制力はなく、

「威圧にならないか」と懸念する声もある。


緊急事態宣言の対象が広がって

警察への依頼も増える可能性があり、

専門家は「現場での配慮が重要」と指摘する。



【図】新型コロナウイルスが生む「負の連鎖」



■海外では取り締まり

「繁華街での外出自粛が強く要請されています。

感染防止のためご協力お願いします」


14日夜、大阪・ミナミの戎橋。

いつもより閑散とする繁華街で、

大阪府警の警察官が通行人に声を掛けていた。

府警はミナミや梅田を中心に、

こうした声掛けやパトカーから拡声器を使って

同様の内容を呼び掛けている。

警視庁や愛知県警も繁華街でパトロールしながら同様の活動をしている。


最初に緊急事態宣言が出た7日、

安倍晋三首相は会見で

「警察が取り締まるということはない。

ただ、

協力を要請することはあるかもしれない」と述べた。

実際に、

大阪府の吉村洋文知事

13日の対策本部会議で

「繁華街で夜間に多くの人が出ていることがないよう、

警察の見守りもお願いしたい」と要請。

愛知県の大村秀章知事も同日、

県警に協力を依頼していた。

こうした活動の問題となるのが法的権限だ。

特別措置法は

「自由と権利の制限は必要最小限でなければならない」と

規定。

医薬品や食品の売り渡しは事業者に命令できるが、

外出自粛は強制力のない要請で、

違反した場合の罰則もない。

声掛けは、

あくまでも知事からの要請を伝えることだけにとどめる必要がある。

フランスなど外出制限に罰則を設けている国で、

警察官が市民を厳しく取り締まる様子が伝えられていることもあってか、

首相の発言や警察の活動を受けて、

「何の権限があるのか」「威圧ではないか」と

批判的な意見もあがった。


■これまで経験ない対応

警察官から声を掛けられた人の反応もさまざまだ。


大阪市内の飲食店従業員の男性(21)は「警察官に声を掛けられると気持ちが全然違う。


危機感がない人も多いので、もっと積極的にやってもいい」と支持。


一方、堺市内の女性(42)は「要請である以上、本人の自覚の問題。


警察官の声掛けにどれほど意味があるのか」と効果に疑問を呈した。



府警では「新たな権限が与えられたわけではないことを十分考慮する必要がある」として、威圧的な印象を与えないように言葉遣いなどを注意するよう指示。


声を掛ける対象も、集団で1カ所にとどまっていたり、酒に酔ったりしている人などを中心に限定的とするという。



福岡県警本部長などを歴任した京都産業大の田村正博教授は「警察も各都道府県の一つの組織。


所属する自治体のメッセージを広く伝えていると考えれば違和感はないが、制服を着た警察官に言われると市民が受ける印象は変わる。


義務のないことを伝えていることを十分に配慮することが重要」と指摘する。


その上で、「現場ではこれまで経験のない対応が迫られる。


どのような言葉を使い、市民からの疑問にどう答えるのか。


誤解を与えないためにも、組織としてさまざまな状況を想定した対応方針を細かく定めて、徹底させる必要がある」としている。