井上靖「氷壁」を読みました ※ネタバレあり
以前から気になっていた、井上靖「氷壁」を読みました。氷壁Amazon(アマゾン)昔、山本太郎出演でドラマ化されており、うっすらとあらすじは知っていたのですがちゃんと読んだことがなかったので。感想★★★★☆面白かったです!600ページほどあるので、結構な長編でしたが、一日で読了でした。以下、ネタバレまくりのレビューです。大まかなあらすじはいろんなところで紹介されていると思うので割愛します。昭和30年代のお話なので、だいぶ時代を感じるのですが、昭和生まれとしてはギリギリ昔ってこうだよねーと理解できました。喫煙しまくりのオフィスとか、会社に個人宛の電話をかけるとか。今では考えられない、昭和の常識が満載でした。冒頭から引き込まれ、大変面白かったのですが、★をひとつ減らした理由としては結局、小坂のザイルが切れた原因が曖昧なまま終わってしまったことです・・・。ナイロンザイルが切れたという実際の事故がベースとなっており、この小説が発行されたときはまだ事故の原因が解明さえていなかったからかもしれませんが・・。これだけが最後までモヤモヤ。自殺ではない、ということは、ザイルの欠陥だったということですよね。はっきり書けなかったのは、そのあたりのメーカーの過失が明らかではなかったからなのか・・・。それにしてもまさか魚津までもが最後に亡くなってしまうとは、想像もしていなかったのでえええええ!!!????と思いながら、ラストを読み進めました。かおる、可哀想すぎるでしょう・・・・。かおるの思い込みの強さは、お兄さん譲りなのかなと思いつつ、当時はお見合い結婚が圧倒的多数だったという背景もあり、「わたしは、お兄さんの大親友と結婚するんだ!」と思い込んでしまうのも致し方ないのかなと。とはいえ、小坂に続いて、魚津も、魔性の人妻、美那子を好きになってしまうんですがなんで???めっちゃ美人だから?それだけで?若くて汚れの無い、かおるの方が良くない…?って思うのですが男性からすると、美人な人妻、美那子に惹かれてしまうんですかねえ。魚津はまだ、自制心があるので、小坂とはちがい、道を外すことはなかったですが告白しちゃうし。言わなきゃいいのに・・・。正直、女性の読者の立場だと、美那子にどうしてそこまでの魅力があったのかよくわからず。登場する男性のほとんどが「美人だ!」と印象をもつってことは、相当な美女ということですが。当時の美那子の年齢って、すでに若い、とは言い難いはず(美那子もそれを自覚している)それでも惹かれるって、年齢を超える魅力があるってことです。美那子はあるいみ男性的というか、小坂と、一線超えてしまったすぐあとに、一気に気持ちが冷めてしまったり。賢者モード入るって、あなた男ですか、って突っ込みたくなりました。小坂は、たった一回の・・・が忘れられなくなってしまってストーカーのように美那子を追っかけてしまう。夫もうっすらと気づている。夫が気づく理由として、「断っても断ってもしつこいんです」と美那子が一生懸命説明することでよけいに怪しまれてしまう。ここの描写が上手いなあと思いました。小坂が亡くなったというのに、今度は魚津にターゲットを定めてしまう、魔性の美那子。どんなだけお盛んなんだ。年上の旦那で欲求不満になった若妻、としか思えない・・・。魚津はキリリとした山男で、そりゃモテる要素はあるんですが。小坂の友達だよ・・・。美那子が、節操がなさすぎで、ドン引きです。なんで八代と結婚したんだろう。ふたりはどう出会って結婚したのか、詳しく書かれていないので分からないのですが。小坂は自分のせいで自殺したかもしれない!のに、その友達に魚津にドキドキしちゃうとかよろめき夫人すぎるだろっ!かおるが、魚津と美那子がそんなかんじ、と気づくシーンもすごく上手く書けていて井上靖は、こういう男女の心情を描くのも長けてるんだと思いました。かおるは、兄の火葬のあと、魚津に「結婚してください」と唐突にプロポーズしちゃうんですがその返事をもらいに、魚津の部屋にいったときのやり取りの描写が秀逸でした。魚津は疲れ果てて帰ってきて、かおるにぞんざいな態度を示してしまいます。疲れてるのにな・・・と。かおるは瞬時にそれを察して、美那子がいれば魚津の態度は違ったのではないか、と魚津に問うと魚津は、そうかもしれない、と答え、かおるは絶句します。そこで、魚津の本心を知ってしまうのです。かおるは絶望し、帰ろうとするのですが、引き留められ、逆に魚津から、結婚しようと言われます。魚津としては、ここで、美那子に向かっていってはいけないかおると結婚しなければと決意するのですが・・・。なんだか酷い話です。美那子を忘れるために、かおると結婚しようとするのですから。ここで魚津は神に誓って、という表現を使うのですが、これは直前での、上司の常盤とのやり取りが伏線となっており、これも非常に上手いなあ、と思いました。かおるは、魚津の言葉を信じ、ふたりは結婚に向かっていくのですが・・・なんと魚津は遭難して死亡というバッドエンドに・・・。落石に気づいて、引き戻らなければ!と思うものの引き戻るという事は、美那子のところに向かってしまう気がして、前に進んでしまう。自分がかおるの元に向かうんだ!って。この判断により、落石に当たって、その結果亡くなってしまうわけです・・・。引き戻っていたら、助かったかもしれないけど魚津は一生、美那子のことを考えながら生きていくことになったでしょう。それもどうなんだ、という。。。魚津は亡くなってしまったのに、ラスト、かおるは多幸感に浸っているようにみえますがそれは、死しても魚津は自分のものになった、(美那子ではなく自分のものに)という征服感のようなものでしょうか・・・。美那子は、2人の男を死に導くという、魔性というか死神のような女でこのあと、どう生きていくのかなと思いました。年老いた夫と、愛のない絶望した生活を過ごしていくのか・・・それともまた、若い男を見つけるのか。絶望した生活を送ってもらいたいものですね。この小説では、魚津の上司の常盤さんが、唯一の救いのような存在でした。こんな人が自分の近くにいたら最高だなと・・・。魚津が亡くなったあと、社内でそれを伝える際「僕たちのよき友達であった魚津君が・・・」というのです。よき友達、という表現が、とても素敵で素晴らしいと思いました。自分の部下のことを、同じ会社の社員のことをよき友達 といえる。こんな素敵なことあるかな。「私の部下の魚津君が」「弊社の社員の魚津君が」ではないんです。この表現で、常盤大作という人となりが表れていてあらためて井上靖ってすごいわ・・・・と思いました。八代氏が、美那子に対して愛情とはなんぞやと考えるシーンなどなかなか興味深い場面も多かったです。ドラマだと、魚津は玉木宏だったんですね。ちょっとさわやかすぎやしないか?