井上靖「晩夏」を読みました ※ネタバレあり※
井上靖作品をはじめてちゃんと読みました。晩夏-少年短篇集 (中公文庫, い37-6)Amazon(アマゾン)短編集です。井上靖が少年時代を過ごした伊豆での思い出がベースとなっています。感想★★★★★日本語が美しい・・・。AI全盛期な昨今ですが、やはり人間が書く文章の美しさには勝てないのではないかと思いました。自分の語彙力が衰えていることもありますがこの小説で初めて知る表現もいくつかあり、勉強になりました。吝嗇 (ケチであること) 黙契(暗黙のまま、お互いに了承していること)等々。黙契は漢字から意味が想像できますが、吝嗇は全く分からず意味を調べました・・・。なんでしょうね。格調高いのです。文章が。描かれているのは、大正時代の伊豆なのですが自然の様子などの表現がとにかく秀逸。伊豆の美しい風景が目に浮かびます。短編集の中で「黙契」「白い街道」「蜜柑畑」が特に良かったです。「白い街道」は、主人公の姉が駆け落ちしてしまう話なのですが姉がいなくなってしまうことを恐れた主人公は、駆け落ち用に姉が祷準備していた風呂敷を隠してしまいます。それでも姉は家を出てしまうのですが、寒い日のバス停で、相手の男性のマフラーと外套を着ている姉をみて、姉は男性から大切にされているんだと少年が気づくシーンが特に印象的でした。なので、少年は、目にしたことを誰にも言わないと心に決めるのでした。姉の幸せと、寂しさの感情がよく表現されている秀作でした。「黙契」は、親に内緒で、街の芝居小屋で小銭稼ぎをしていた少年と、愛人と思われる女性と連れ立って観劇にきていた父親の話。普段は恐ろしい、父親に怒られる!と思いきや、父親も、愛人と来ていた手前、息子に何も言えない。それが「黙契」というわけです。父親は後に亡くなるが、この芝居小屋での一件が一番好きなエピソードである、というラストが良かったです。あまりに良作なので、あまりネタバレしたくない・・・ぜひ読んで頂きたいです。